Tuesday, October 23, 2007

235 scientific journals

世界中Global Healthだらけ。

NIH(米国衛生研究所)がすごいことを仕組んだらしい。

NIH Launch of the Council of Science Editors'
2007 Global Theme Issue on Poverty and Human Development


昨日(10/22/2007)、世界の主要な科学雑誌235誌で、一斉に"Poverty and Human Development"の記事が掲載された。

論文を掲載した雑誌は、The Lancetはもちろんのこと、BMJ, JAMA, Nature, Science, Cell, Am J Public Health, Epidemiology, Family Medicine, Pediatrics, Circulation, Hypertension, Stroke, Obstetrics & Gynecology, Anaesthesia, Neurology...などなど

"More than 230 scientific journals throughout the world will simultaneously publish articles devoted to the topic of poverty and human development. Eight of the most outstanding articles from these journals addressing critical issues of global health research and policy were selected by a panel of NIH and CSE experts for presentation. New research in these articles examines interventions and projects to improve health and reduce health-care inequities among the poor."


取り上げられたテーマは、

childbirth safety, HIV/AIDS, malaria treatment, food insufficiency and sexual behavior, interventions to improve child survival, physician brain drain from the developing world, influenza's impact on children, use of satellite technology to predict disease outbreaks

と、多種多様。
ほぼGlobal HealthのHot Issuesを網羅している。

出版された論文は、こちらから閲覧可能。

あまりにも多すぎて・・・・いい論文を探すだけでも一苦労しそうだ。

今回のキャンペーン選りすぐりの8論文については昨日NIHで開かれたイベントで表彰されたそうだ。

これだけ世界は熱くなっているが、残念なことに、今回の235誌の中に日本の雑誌はひとつもない。
医学の世界でニュースにすらならない。

日本の医学界も真剣にアメリカ以外の世界のことを考えてみてほしいものだが...

Sunday, October 21, 2007

Women Deliver Launches!

3日間にわたって開催されたWomen Deliver Conferenceが昨日、幕を閉じた。

Women Deliver Conference Launches New Commitments (PR Newswire)

参加した各国政府や国際機関、NGOからは、MDG-4/5(MNCH)の達成を高い優先度を持って取り組むことが宣言され、そのために、女性のエンパワメント、ジェンダー平等をmultisectoralに推進していく必要性が訴えられた。

イギリス政府は、Women Deliver Initiative推進のためUNFPAに1億ポンド(日本円にして230億円超!)拠出することを確約し、日本政府は、Global Healthを来年のG8洞爺湖サミットおよびTICAD IVの中心課題に据
えることを宣言した。

主導権をイギリス・ノルウェーに持っていかれまいと、日本政府は、人間の安全保障のコンセプトに立脚した包括的なGlobal Healthのビジョンを提示したいと意気込んでいる。近いうちに政府から政策が表明されるようだ。

日本はこれまで、途上国であった「日本の経験」を2国間援助の枠組みの中では生かし、確かな成果を挙げてきた。しかし、国際的にはアピールが十分ではなかったと思う(これはGlobal Health分野に限らないと思うが・・・)。

ぜひとも今後のGlobal Health分野での日本のリーダーシップに期待したい。
そして、国内におけるGlobal Health分野が整備され、政策、研究、実践がリンクしあいながら発展する環境が生まれることを願うばかりである。

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Safe Motherhood Nairobi Conferenceの20周年として、Women Deliver Conferenceの果たした役割はどのようなものだったのだろうか。

もちろん、Materal Mortality/Morbdityについて、再び政治的に強いcommitmentを引き出すことができたことは大きな成果だろう。
しかし、私は何よりMDGsでバラバラに分断された「ケアの継続性」、そして「統合的・水平的なアプローチ」という観点に再びスポットが当たったことが重要だったのではないかと思う。

MDGsでは、貧困の撲滅(MDG-1)、初等教育の普及(MDG-2)、女性のエンパワメント・ジェンダー平等(MDG-3)、乳幼児の健康(MDG-4)、妊産婦の健康(MDG-5)、感染症(MDG-6)などがバラバラのターゲットとして設定された。
成果主義の観点からはこうした分割は確かに正しいが、これらの目標が互いに関係しあっていることを忘れてはいけない。関連性についての認識はあっても、具体的にそれがプロジェクト・プログラムに落とし込まれる際には、Goal設定としてどれか1つが選択されてしまう現状がある。
例えば、乳幼児と妊婦がバラバラにスポットを浴びたために、それらの継続性の観点が失われてしまい、新生児のケアの重要性が見落とされたり、女性のライフサイクルのうち、妊産婦としての女性の健康のみに着目することで、社会における女性のエンパワメントの視点を失ってしまったりすることはしばしばある。

妊娠から出生・発達(Maternal, Neonatal and Child Health)という「継続性」、そして女性のライフサイクルという「継続性」に着目した「Continuum of care」の視点は、1994年のカイロでの国際人口・開発会議で注目されたReproductive Health & Rightsの思想(更にはSexual and Reproductive Health & Rights)への回帰ともいえると思う。

また、それぞれの目標がバラバラに取り組まれることで、似たような介入が重複して行われたり、逆に1つの介入が他の介入の妨げになってしまうような事態も起こっている。先のL. Garrettの指摘はその最たるものではある。
統合的・水平的なアプローチの重視は、レシピエント政府のオーナーシップのもとで各ドナーが協調することで、こうした無駄や対立した介入をなくすことにつながる。Women Deliverをめぐっては2つの統合の方向性があるのではないかと思う。
1つは、公衆衛生のシステム強化というベースの元で、MNCHや感染症を含む種々のGlobal Healthのアプローチが統合されること。そして、もう一つは、Global Healthにおける「妊産婦の健康」という視点から、Global Developmentの枠組における「社会における女性」という視点に統合されること(Lancet 2007;370:1347-1357)だ。

これは、医療の世界で言うならば、臓器別の高度先端医療を全人的医療に統合するという難題に近いものであるように思える。さまざまなドナーのさまざまな思惑が絡む中、こうした作業を行っていくのは並大抵の仕事ではないだろう。
概念的・政治的な方向性はついた。さて、これをどう現実のアプローチとして落とし込んでいくのか。これからが正念場だ。

Wednesday, October 17, 2007

Women Deliver

夏を挟んでずいぶんと中断していたBlogを再開。

この間にも世界はすごい勢いで動いてきた。

何より大きな動きがあったのは、母子保健(Maternal, Neonatal and Child Health: MNCH)をめぐる動きである。

今年は"Safe Motherhood Initiative"が始まって20年という節目の年であると同時に、昨年のMDGs中間(1/3)評価で達成が極めて難しいと危惧されたMDG-5に対し、国際社会が重点的な取り組みを開始するべき年でもある。

9月26日には、NorwayのStoutenburg首相がMGD-4,5、特にMGD-5に焦点を当てたグローバルキャンペーン"DELIVER NOW FOR WOMEN + CHILDREN"を発表、10億ドルの拠出を表明した。
また、10月4日には、Clinton Global Initiative(CGI)の年次会合が開かれ、同じくMNCH分野へ12.5億ドルの拠出が発表された。

いま、MNCHの分野に、とにかく大きなお金が動いている。

そして、こうした動きに対する1つのまとめとなるのが、明日(10月18日)からロンドンではじまる国際会議"WOMEN DELIVER"である。これまで母子保健の分野で活躍してきた国際機関、NGO、GO、そして研究者らが一同に会し、これからのMNCHのあり方を議論するという重要な会議である。


更に10月29日~11月2日には北京でGlobal Forum for Health Researchが開かれ、Maternal mortality研究をめぐる問題についても話し合われる。


WOMEN DELIVERに合わせ、学術面からの報告も相次いでいる。

10月12日には、WHO/UNICEF/UNFPA/World Bankより2005年のMMRに関するモニタリング報告書"Maternal Mortality in 2005"が、発表された。
MDG-5達成のためには、1990年から2015年まで年平均5.5%のMMR低下が必要であるとされているなか、2005年のMMR低下は世界平均で1%以下、サブサハラアフリカでは0.1%でしかなかったことが明らかとなった。

また今週(Oct. 13-19)のTHE LANCETでは、WOMEN DELIVER開催に合わせ、紙面のほぼすべてを使って妊産婦の健康に関する特集を組んだ。(THE LANCET 2007; 370, 1283-1392)


まだ読み始めたばかりなのでコメントは避けるが、これまでのMaternal Mortalityの現状を総括し、今後"Women Deliver"へと発展するMNCHのあり方について極めて重要な視点が得られそうだ。

p.s.
このBlogスタートのきっかけともなったL. Garrettの"The Challenge of Global Health"。この中で著者はHIV/AIDSを筆頭とするVerticalなGlobal Health Programsへ資金が大きく流れたことで、逆に地域の公衆衛生を担う現場の人手が不足しているという現状を指摘し、地域の公衆衛生の改善というHorizontalな介入の重要性を説いた。あれからもうすぐ1年。Global Healthを取り巻く環境は大きく変わりつつあるように思う。
国連やGOはもとより、Gates FoundationやClinton Initiativeの巨額の基金が、今度は母子保健の分野へと流れ始めた。
また、Brown政権のイギリスは、こうした流れと平行してInternational Health Partnership(IHP)という保健システム強化を主眼とするイニシアティブを先導しはじめている。

地域保健のempowermentの鍵であるMNCHが大きくテコ入れされ、同時に保健システムというgovernanceの改善に注目が集まることで、L. Garettの指摘する空洞化は改善されていくのかもしれない。

こんな世界の流れの中で、日本はどのような形で貢献できるのか。
この流れというのは、実は日本がこれまで得意としてきた分野そのものなのではないかと思う。日本で発展した母子健康手帳(MCH Handbook)は、まさにMNCH、Continuum of careの概念に通ずるものであるし、地域保健のシステム強化も、かつて途上国であったこの国が今日まで経験してきたことそのものであるように思える。

いまだGlobal Healthの潮流の主導権は欧米にあるが、そうした意味では日本はこの流れにおいて重要な役割が果たせる可能性がある。来年のTICAD IVやG8サミットをはじめ、来年は日本がGlobal Healthに関わるConferenceを主催する機会も多い。こうした意思決定の場を通し、ぜひ日本も役割を担っていってほしい。

drasticに動き続けるGlobal Healthに今後も眼が離せない。