Thursday, November 6, 2008

Obama and the Global Future

田中ニュース: オバマと今後の米国

民主党のオバマが大方の予想通り次期大統領に決まった。そんなオバマ当選の当日に発表された田中ニュース。世の中のお祭り騒ぎに踊らされず、非常に健全な感覚を持った分析だと思う。現時点でこの分析を出すというのは勇気がいることだったと思う。

とはいえ、一部いきすぎだと思わないところもないでもない。変革を訴えるオバマがロバート・ゲーツを再任することはやはり考えづらい(様々なところでうわさはされてはいるが・・・)。オバマは少なくとも民主党の政権の基盤を整えるためにも、過去の勢力をワシントンから一掃するのではないか。
また、多分次の記事あたりで触れるつもりであえて書かなかったのだと思うが、実のところ目下の重大懸案はロシアではなく、イスラエルの方なのではないかと思えてくる。

日本についての分析については筆者の意見に強く賛同する。
マスコミの報道は、いまだ大本営発表一辺倒であり、(少なくともマスメディアでは)健全なジャーナリズムが機能していない。多極化する世界の中での日本の戦略をあえて描こうとしない日本政府をどうして批判しようとしないのか。どのニュースを読んでも、日米同盟の堅持だの、拉致はどうなるだの、そんな話ばかり。今本当に大切なのはそんなことではない。重要なのは今が世界の体制の大転換期にあるという事実だ。

今最も考えるべきことは、多極化に向かう世界の中での日本の立ち位置だろう。少なくとも拉致ではない(もちろん拉致も重要な懸案であることを否定するつもりはないが)。多極化する世界の中で日本はどういった立場をとっていくつもりなのか、明確なビジョンは全く見えてこない。
日本だけが一人立ちの勇気もなくアメリカの傘に居続ける姿勢を崩していない。オバマが宣言する通り、アメリカは確実に「CHANGE」する。超大国として「CHANGE」するのではなく、その責務から開放されることによって生まれ変わろうとしている。(既に現ブッシュ政権からその布石は打たれ始めているのだが)
アメリカは背負い続けてきた荷物を捨てたがっている。(すでにヨーロッパの荷物=英やNATOは捨てた。)
既にアジアには今後極となりうる大国が存在しており、アメリカがそうした国々の宗主国である目的をすでに失っている。必要と感じているのは日本のみだ。
日本は、世界中からアメリカ一辺倒から一人立ちすることを望まれている。少なくとも今の中国はアジアの単独覇権国となるにはまだまだ不安定であり、アジアは中国以外にも極となりうる安定した存在を欲している。そして日本はその役を引き受けるべき立場にある。(IMFの通貨の多極化戦略においても円は米ドル、ユーロ、人民元、GCC(湾岸統合通貨)に並ぶ軸として考えられている)
日本が改めて世界から信頼される国になるためには、世界から望まれる立場を引き受けることが必要だ。もしこの責任を果たさないのなら、日本は確実に今後の多極化世界において見捨てられた存在になる。

日米同盟中心主義を崩さない麻生に比べ、少なくとも、民主党の小沢はこの点を充分に認識し、日米同盟堅持としながらも、外交政策では国際社会における日本の役割を独立させたものにすることを中心に据えている。その点で国連待機部隊を創設しようとする意図は充分に理解できる。民主党には政権を担うにあたり多々足りない部分があるが、この重大な問題の認識という点においてははるかに健全であるように思える。

Saturday, November 1, 2008

Will International Crisis Occur?

Powell Warns of Crisis "We Don't Even Know About Right Now"

先日バイデンが発していた言葉をオバマ支持のパウエルも繰り返した。「来年オバマが大統領に就任した直後、何らかの国際的な危機が起こる。そしてオバマはこの最初の試練を乗り越えなくてはならない。何らかの国民の反発を招きうる政策をとることを決断せねばならないかもしれない。」というのだ。

ここでいう「国際危機」とは経済危機のことではない。政治危機のことを指していると考えられる。バイデンもパウエルも何が起こるか、明言は避けているが、何らかの政治危機、戦争が起こることを予感させている。

来年頭の政治危機として想定しうるものを考えてみると、真っ先に浮かぶのがイスラエルと中東の戦争である。

イスラエルは、先日の米国大統領選に関する調査で圧倒的多数がマケイン支持であった。
マケインは、イスラエルと大きなパイプを持ち、イスラエル寄り姿勢を示している。もし大統領となったならば今後もイスラエルと中東に対する影響力を行使し続けてくれると考えているためだ。
一方のオバマは、イスラエルとは距離を置く姿勢をとっている。親イスラエルであるヒラリー支持者がオバマ支持への鞍替えに対して困惑する点の一つはここにもある。

イスラエルとの関係まで「CHANGE」しようとしているオバマが大統領になれば、イスラエルは現在行使しているアメリカにおける権力を大きく失うことになる。(アメリカは政権が変わると、官僚機構の内部の重要な人事の総入れ替えが起こる。ワシントンD.C.の雰囲気が変わるとすら言われる。)

しかも後ろ盾がなくなるイスラエルはオルメルト首相の任期が切れ、来年2月前後に総選挙を迎えることになる。アメリカの後ろ盾を失うことが濃厚なイスラエルの世論は割れており、和平に積極的な中道与党のカディマのリブニと、反パレスチナの右派リクードのネタニヤフが戦うことになる。以前であれば、アメリカが眼を光らせており、こうした際に外国の介入を招くことはあまりなかったが、今度はアメリカの影響力が弱い中での選挙である。この期に乗じて中東がイスラエルに圧力を加える可能性は否定できない。

しかし、私はむしろイスラエル側からの攻撃こそ可能性が高いのではないかと思う。イスラエルにとってみれば、オバマが大統領になった時点ですでに守るものはなくなってしまうのだから。守勢に立ち続ければ中東の介入を招き、いずれ戦争になる。そうならばあえて先手をとることで、アメリカの世論を喚起させ、嫌でもアメリカに介入させようとするのではないか。

更にこの危機を扇動するであろうと思われるのが、911以降潤ってきた米の軍需産業だ。イラク戦争終結を明言しているオバマが大統領になったら、アメリカの対テロ戦争の主戦場はアフガンに絞られることになる。彼らは戦場がなければ産業が成り立たない。オバマが大統領になった時点で出鼻をくじいて新たな戦争を起こし、世論を操作しようと考えてもおかしくはない。

もし中東戦争が再び起こるとしたら、オバマはどんな決断をするのか。イスラエル滅亡を容認すれば、アメリカ内部の巨大なユダヤ人コミュニティから猛反発を食らい、まだ脆弱な段階の政権運営に極めて大きな影響を及ぼす。一方、イスラエルを擁護することになれば、シオニスト(イスラエル復興主義者)の政権内への侵入を許すことになる。いずれの決断を下すとしても、前途は極めて困難だろう。

果たして、バイデンやパウエルが言うように本当に「何らかの危機」は起こるのか。しずれにしても今度のアメリカ総選挙で世界は大きく変わる。何が起こってもおかしくはないのは確かだ。

Friday, October 31, 2008

'Human catastrophe' grips Congo

'Human catastrophe' grips Congo

先進国が経済危機であたふたしている一方では、アフリカのコンゴ民主共和国(DR Congo)東部で内戦が激化して20万人以上の国内避難民が出ている。一部はすでに国境を超えて難民としてウガンダにも移動していると予想されている。

この内戦、根本にあるのは、この近隣に住むツチとフツの因縁の関係、そして地下に眠る豊富な天然資源だ。

ツチとフツ(民族的な相違はないとされているため、「ツチ族」、「フツ族」は誤り)の因縁の関係は、94年のルワンダの大量虐殺で記憶している人も多いと思う。もともと、ツチとフツとの因縁は今から500年もさかのぼる。古くから王国であったルワンダでは、少数派のツチが多数派のフツを支配するという構造の社会であった。その構造は植民地時代を経ても変わらず、戦後独立を果たした後も、ツチが政治の実権を握る社会が続いてきた。ところが東西冷戦が終わり世界の緊張関係が変化すると、こうした矛盾が一気に顕在化した。抑制がとれ、大量に流入した武器を手にフツの過激派によるツチへの反乱が始まった。いわゆるルワンダ内戦だ。

一時はフツの手に渡り、ツチ、穏健派フツへの凄惨な虐殺が行われたルワンダだったが、その後、ツチはウガンダの協力を得て再び進攻、フツをザイール(現DRコンゴ)東部においやった。その後、ツチ中心へと戻ったルワンダ政府はフツ掃討を目的にザイールへ進攻し、首都キンシャサを陥落させるに至る。(ザイールはもともと、複数の部族が群雄割拠しており、国としての力は弱かった。)

ここで更に話をややこしくしているのが地下資源の存在だ。DRコンゴは、アフリカ随一の鉱物資源国であり、中でもダイヤモンドや銅、半導体の原料となるレアメタルなどの埋蔵量は世界有数の規模を誇る。 フツ掃討のために進攻したルワンダ軍はその地下資源に眼をつけ、軍資金を獲得するためにダイヤモンドの採掘をはじめたのだ。


その後、キンシャサ陥落後、傀儡として政権を握った大統領カビラは、あろうことか逆に親であるルワンダの支配からの脱却を目指し、フツを支援した。当然ルワンダは激怒、カビラ打倒へ兵を進めはじめる。そこでカビラが利用したのが豊富な地下資源だった。その採掘権を見返りに周辺各国へ支援を要請、鉱山地帯の争奪を目的に大規模な国際紛争(アフリカの世界大戦とも呼ばれる)がまき起こった。この戦争の黒幕が利権をむさぼる欧米企業(鉱山企業、宝石企業、銀行など)であったことは映画「ブラッド・ダイヤモンド」でクローズアップされた通りだ。

その後、カビラ大統領が暗殺されたことで事態は収束していく。後をついだ息子のジョセフカビラは和平を模索し、国連の仲介で2003年、周辺諸国を撤退させ、フツの勢力の多くを武装解除させ、紛争は終結した・・・はずだった。

しかし・・・物事はそうは簡単には動いていない。そもそもDRコンゴは面積が大きい国だ(ヨーロッパ全体とほぼ同じ大きさ)。広範囲に広がるゲリラをすべて武装解除させることは至難の業だ。DRコンゴ東部のツチ勢力ゲリラである「人民防衛国民会議(CNDP)」はその後も「フツから土地を守る」ことを名目に武装を続け、コンゴ東部は極めて治安が悪い状況が続いた。

今年1月になって和平協定が結ばれ、事態は好転するかに見えたが、8月には協定を破棄し、再び戦闘を開始していた。(そもそもCNDPのボス、ヌクンダは署名式に欠席している)

なぜ再び戦闘が始まったか。一番の理由は、DRコンゴ政府によるフツ勢力の勢力拡大を黙認したことだと言われている。DRコンゴ政府はフツに対し、表面上は不法占拠をやめるよう清明は出しているものの、実際には一切そのための行動を起こしていないためだ。そもそも前カビラ政権時代、DRコンゴ政府はフツを支援しており、ヌクンダは現在も鉱山地帯を支配するフツが政府の支援を受けていると考えている。(採掘を共同で行ったりしているらしい。)

その真偽はともかく、DRコンゴ政府側にも引き下がれない理由があった。それは逆にCNDPがルワンダから武器供与を受け活動していると踏んでいるためだ(ルワンダは関係性を否定している。)。ルワンダは、内戦後現在に至るまでツチ勢力が再び実権を握っている(表面上はツチとフツの区分は撤廃されたが)。ルワンダ大統領のカガメは内戦の際のツチ反乱軍の出身だ。DRコンゴ政府がヌクンダを利用してDRコンゴ東部のフツを武装解除させたいと考えるのにはもっともな理由がある。

つまり裏を返すと、DRコンゴにおけるツチvsフツの紛争はDRコンゴとルワンダの代理戦争という見方ができる。

紛争はここにきて激化している。CNDP側が攻勢を強めているためだ。国連は、DRコンゴ内紛終結後、史上最大規模17000人の平和維持部隊(MONUC)を展開してきたが、CNDPの進軍に手をこまねいている。DRコンゴ東部の拠点ゴマでは、CNDPに追われた避難民が大量に押し寄せており、治安が急激に悪化。手をこまねく国連に怒ったゴマ市民によるMONUC事務所の襲撃まで起こっている。

政府軍は既にゴマを捨てて撤退をはじめており、市民はパニック状態。ゴマの避難民キャンプから さらに4万5千人が退去をはじめているという。

更に、事態は複雑化している。DRコンゴ政府は、ルワンダ政府が国境を超えて攻撃したと避難、隣国アンゴラに支援を求めている。ルワンダ政府は否定しているが、MONUCの拠点もルワンダ側から砲撃を受けている。

DRコンゴ政府・国連 vs CNDPという構図から、更にルワンダやその他の周辺国を巻き込んだ大規模な紛争に発展しかねない様相を呈し始めた。

ふたたびルワンダ危機の悪夢が蘇るのか。

世界が金融危機で危機に陥っている裏をついた今回のコンゴ紛争。ヌクンダの目論見どおり、先進国が足元の火事で大忙しになり、DRコンゴの危機のニュースは置き去りにされてしまっている。このまま国際社会の眼が向かなければ、本当に大惨事へつながりかねない極めて危険な状況である。

こういった時にこそ、ダルフールの反省を生かし国際社会は毅然とした態度で取り組んでほしいのだが・・・。

Wednesday, September 24, 2008

Google: Wiping out the next smallpox

The Official Google Blog: Wiping out the next smallpox

Googleは設立10周年を迎え、次の10年でおこる技術革新とグローバル社会へのインパクトについての見解を公式ブログで公開している。
これまで数日はウェブ技術や広告などに関する見解が多かったが、ここ数日は、社会的なテーマについて意見を発表している。

そんな中、今日発表されたのは、「Wiping out the next smallpox」という記事。
新興・再興感染症の脅威と、この分野でのイノベーションの重要性と、Google.orgによる「予測と予防」イニシアティブの役割を述べている。

Google.orgは、Googleのフィランソロピー部門であり、営利企業の形態をとる組織である。
営利企業であるので、非営利、営利を問わず、投資を行うことができ、また利潤を追求することができる。
”Predict and Prevent(予測と予防)”イニシアティブは、新興・再興感染症などの新たに発生した国際公衆衛生学的危機(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)に対応するための新たなイノベーションに投資を行っている。
2008年3月の新興・再興感染症に関する国際会議の場で、Google.orgのディレクター、Larry Brilliantにより詳細が語られている

そのイニシアティブの概要は次の通りである。(Google.orgより翻訳)

(1)ホットスポットを同定する

新たに出現する脅威を増幅させる複雑な因子を理解することは、社会が新たな脅威による奇襲を予期し、脆弱性を減弱させることに役立つ。Google.orgは、まず次の領域に焦点を置く。

  • 人間の保健、動物保健、環境保健の各セクターを横断的に知識を共有する
  • 脆弱性のマッピング、モデリング能力を高めるため、データの収集、共有、分析を改善する
  • 脅威に耐え、変化を受け入れるため、社会の弾力性を高めることに貢献する

(2)すばやい対応を可能にする

タイムリーで、正確で、アクセス可能な情報は、限定された健康危機を地域的、更にはグローバルな脅威へ発展することを防ぐことができる。Google.orgは次の点に焦点を置く。
  • 革新的な方法を用いることによって、脅威がどこで起ころうとも、それらをすばやくみつけることができる
  • アウトブレイクを確認し、その原因を同定する
  • 地域住民からGlobal Health当局に至るまでの鍵となるステークホルダーに警告する

(3)投資先

現在のグラント先は次の通りである。
  • InSTEDD: 500万US$、複数年。Global Healthおよび人道的な危機に対して、早期発見、準備、対応能力の改善に焦点を置くNPO。
  • Global Health and Security Initiative: 250万US$、複数年。メコン川流域(タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、中国雲南省)における国家レベル、準地域レベルにおける疾病サーベイランスシステムの強化を図るイニシアティブ。
  • Clark大学のClark Labs: 617,457US$。Gordon and Betty Moore財団と同額の出資。アフリカおよびアマゾン川流域における気候変動による生態系、食糧、健康への影響のモニタリング、分析、予測を改善するシステムの開発を行う。
  • HealthMap: 45万US$、複数年。疾病サーベイランスのオンラインデータソースの活用のための綿密な研究を行う。

Google.orgが面白いのは、通常の財団のように国際機関や現地で活動を行うNGOなどに投資を行うのではなく、イノベーションが期待される研究に対して投資を行うところだ。
ゲイツ財団、クリントン財団、ブルームバーグ財団他、Global Healthに巨額の出資を行う財団は数あれど、「イノベーション」に特化した投資を行うのは、Google.orgの他にはないように思われる。

最近のまとめ

久々の投稿。

TICAD IV、G8に向かって盛り上がっている今年の1月でBlogは中断・・・。あらら。

結局、TICAD IV、G8での日本のGlobal Health領域でのリーダーシップは、一応の評価は得た。TICADでは、日本のアフリカへのODAの倍増が約束され、G8では、G8各国のコミットメントの履行状況をモニタリングするフォローアップ・メカニズムの設置を決めたことは評価に値する。
しかし、結局終わってみると物足りなさが残った気がする。
TICADは、次回の開催の約束はなされなかった。
G8の洞爺湖行動指針には、G8がなすべきことが沢山盛り込まれている反面、それを達成するに足る新たな資金拠出はなされなかった。
また、大きな進展が期待された母子保健分野でも、一歩踏み込んだ目標設定はなされなかった。
G8に求められていること、それは政治的に最も高いレベルでのコミットメント、中でもどれだけ資金を「拠出」するか、という約束に他ならない。そういった意味で、今回の洞爺湖サミットのGlobal Health分野のコミットメントは、中途半端なものにしかみえない。

奇しくもTICAD、G8と同時期に再び深刻化した金融危機は、北米、西欧をはじめ、世界を長期の景気後退局面へ追いやる可能性を増している。食料、資源をめぐる競争も激化の一途をたどっている。オイルバブルは、短期的には一応の収束を見たが、長期的には値が低いままである理由が見当たらない。今後数年で再びオイルの値段は再上昇するだろう。
こうした新局面に、もはやG8のみで有効なコミットメントを期待するのは難しいのかもしれない。大きな問題は抱えているものの、新たに力をつけている新興国G5(中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ)を(最低限、開発分野に関しては)、中心勢力として巻き込む必要があるように思える。

Monday, January 28, 2008

World Economic Forum 2008

世界経済フォーラム2008 福田首相 特別講演全文<4>(asahi.com)

ダボスで毎年開催されている世界経済フォーラム(WEF)。
”日本では”福田首相の特別講演(G8 Summit議長国枠)に注目が集まった。
内容は、サブプライム問題から波及した世界経済の下方リスクの話題に始まり、気候変動、アフリカと開発、とG8で扱う主要3議題について概観するものだった。

気候変動では、ポスト京都議定書の枠組みとして、国別に温室効果ガスの排出総量目標を策定するためにイニシアティブをとっていくことを表明し、日本がはじめて総量目標値を掲げることを国際的に公約した。しかし、(大方の予想通り・・・)その具体的な内容に関してはなんら触れられていない。

開発の話題では、「保健・水・教育(MDG-2,4,5,6,7-10)」に焦点を当てることを改めて強調した。
保健分野では、既に言うまでもないが、感染症、母子保健、保健人材の問題を解決するため、システム全体を底上げさせる包括的な取り組みの重要性が改めて強調された。

ちなみにこの特別講演は世界的にはほとんど注目を集めていない。世界的にニュースとなったのは
国内でも注目を集めたのは気候変動のみで、開発にいたってはニュースに取り上げられないか、書かれたとしても1行程度だ。

海外のメディアの反応が悪いのは、当然の事かもしれない。
すでに京都議定書の削減目標達成にめどが立っており、1990年水準の20%減という目標を具体化させつつある欧州にとってみれば、日本の総量目標設定の宣言など、「何を今更」というところなのだろう。
日本にとってみれば、今回の宣言は国内の産業界と国際社会からの圧力に板ばさみの中で妥協を重ねて到達した産物である。政治的妥協力のある福田首相らしい絶妙な中途半端さとも言えるが、妥協を繰り返すだけでは、次のG8サミットでイニシアティブをとることなどできない。すでに欧州中心に具体的にポスト京都議定書に向かって舵はきられているのだから。


ちなみに、講演の半分近くを費やした開発の話題は日本でも海外でもほとんど取り上げられていない。
取り上げられたのは、U2のBonoが援助を引き出すため、REDブランドのiPodを首相にプレゼントしたというニュースぐらいだ。
当たり前である。先日の高村外相の政策演説と比して何か目新しい内容はあったか?
繰り返し主張している保健システム強化のためにいくら拠出する予定なのか。
全員参加型の枠組みとは具体的にどのようなものを想定しているのか。何も分からない。

福田内閣は衆参逆転で基盤は極めて脆弱であり、産業界から見離されては政権運営が行き詰まるであろうことは分かる。しかし、忘れてはいけないことがある。政権維持と長期的な日本・世界の将来、どちらを重視するのか。天秤にかける間でもないだろう。G8 Summitの議長国を務めることの意味をもう一度問い直したい。

今回のWEFでは、国際社会における日本についてこんなセッションがもたれた。
日本は世界第2位の経済大国であるのに、グローバル、地域内の国際関係における将来の影響力が危惧されている。G8をホストするにあたって国際社会における立場を明確にし、際立たせることができるのか。国際社会からこんなことを心配されているのだ。

日本は本当に本気になっているのか?サミットを前に世界から心配されている。

Thursday, January 24, 2008

State of the World Children 2008: Child Survival

前回の投稿からしばらく経ってしまった。知らぬ間に時は2008年。
京都議定書の約束期間が始まった環境元年にして、PHC(Primary Health Care)の概念が成立したAlma-Ata 宣言から30年目の節目の年。日本にとっては、環境やGlobal Healthのテーマで大きな会議を2件もホストする重要な年だ。そして私個人にとっても、次のステップへの最後の年となる。

去年はなにやら大きすぎるテーマばかりを扱ってしまい、議論が浮世離れした感も否めないので、今年はもっと身近なテーマも含めてBlogを書いてみたいと思う。(それだけGlobalレベルでの動きが大きかった1年とも言えるのだが。)

と、書きつつも、2008年最初のテーマは、またでかい話だ。
今週、UNICEFが今年の世界子ども白書「State of the World Children 2008: Child Survival」を発表した。

今回のテーマは、直球ど真ん中。”Child Survival”である。
2007年の世界子ども白書のテーマは、2007年のGlobal Healthの流れそのものといっても過言ではない「子どもと女性」。女性のエンパワメントが子どもの健康に及ぼす影響を分析した。

全部読むのは大変だが、ざっと概観するには、こちらのThemes and Profiles、およびCharts and Graphsが分かりやすい。

統計そのものの価値(2007年の世界の子どもの死亡ははじめて1000万人を割り込んだ)もさることながら、UNICEFの政策の転換が鮮明になっているところが興味深い。

今回の白書の重要なポイントは、

・ 包括的プライマリ・ヘルス・ケアへの回帰
 > Health System Development (Governance)
 > Community-based Approach (Empowerment)
 > Continuum of care

政治的コミットメントグローバルパートナーシップの重要性

といった点だろう。

最も大きな変化なのは、過去、GOBI-FFやEPI、IMCI、ACSD(略語だらけだ・・・)など、Vertical programを得意としてきたUNICEFが、Horizontal Approach、まさに30年前のAlma-Ata宣言(包括的PHC)の理念に回帰したという点であるように思える。上からのGood Governanceと下からの村人のEmpowermentを組み合わせるという使い古された理想論を、90年代、2000年代にUNICEFをはじめとした国際機関、GOなどが強力に推し進めてきたVertical Programを整理し束ねることで実現していこうということが趣旨。

また、2007年からの流れを汲んで2008年は、母性(Maternal)から新生児(Neonatal)そして小児(Child)に至るまでのケアの継続性(continuum of care)を重視した内容になっている。これは昨年のWoman Deliver Conferenceで散々主張されたことで、再び説明する必要は無いだろう。

なんか、こうしたUNICEFの変化を見ていると、日本(JICA)はずいぶん先を走っていたのだなぁ、と気づく。(別にJICAの回し者ではないが・・・)
保健システム強化は以前からJICAの保健分野の最重点取り組み課題であるし、Continuum of Careの理念そのものである母子保健手帳(MCH Handbook)の普及活動には既に10年の実績がある(最初のインドネシアでの母子保健手帳プロジェクトは1998年から)。日本は自国の経験からUNICEFが気付くはるか前からこうしたアプローチの重要性に気付いていたのだ。(こうしたアプローチの重要性が実証的に確認されたのは最近なのだが。)

別に私は日本を褒め称えたいわけではない。ただ残念なのは、こうした良い先例が世界(特に欧米諸国)にはあまり広く知られていない点だ。あまり、というより、全然、かもしれない。これにはさまざまな理由が考えられるが、やはり最大の理由は日本のGlobl Healthの土壌が欧米に比べると発展途上であり、基盤整備が遅れていることに他ならないのではないか。特に実践科学としてのGlobal Health(研究、実践、政策の循環)、そしてそうした活動を支える一般社会のGlobal Healthに対する理解という点においては、大きく立ち遅れているように思われる。

この状況を変えるチャンスは、今だと思う。

理由は2つある。1つはこれまで述べてきたとおり、欧米の潮流が日本の考え方に接近したことである。そしてもう1つ、今年このいいタイミングに、日本は今回の白書でも述べられている「政治的コミットメント」を引き出し、「グローバル・パートナーシップ」の構築においてリーダーシップをとるチャンスに2度もめぐまれるためだ。

是非この機会を端緒に国内でもGlobal Healthの基盤整備を進め、社会の(単なる同情ではない)理解が深まっていってほしい。