Monday, January 28, 2008

World Economic Forum 2008

世界経済フォーラム2008 福田首相 特別講演全文<4>(asahi.com)

ダボスで毎年開催されている世界経済フォーラム(WEF)。
”日本では”福田首相の特別講演(G8 Summit議長国枠)に注目が集まった。
内容は、サブプライム問題から波及した世界経済の下方リスクの話題に始まり、気候変動、アフリカと開発、とG8で扱う主要3議題について概観するものだった。

気候変動では、ポスト京都議定書の枠組みとして、国別に温室効果ガスの排出総量目標を策定するためにイニシアティブをとっていくことを表明し、日本がはじめて総量目標値を掲げることを国際的に公約した。しかし、(大方の予想通り・・・)その具体的な内容に関してはなんら触れられていない。

開発の話題では、「保健・水・教育(MDG-2,4,5,6,7-10)」に焦点を当てることを改めて強調した。
保健分野では、既に言うまでもないが、感染症、母子保健、保健人材の問題を解決するため、システム全体を底上げさせる包括的な取り組みの重要性が改めて強調された。

ちなみにこの特別講演は世界的にはほとんど注目を集めていない。世界的にニュースとなったのは
国内でも注目を集めたのは気候変動のみで、開発にいたってはニュースに取り上げられないか、書かれたとしても1行程度だ。

海外のメディアの反応が悪いのは、当然の事かもしれない。
すでに京都議定書の削減目標達成にめどが立っており、1990年水準の20%減という目標を具体化させつつある欧州にとってみれば、日本の総量目標設定の宣言など、「何を今更」というところなのだろう。
日本にとってみれば、今回の宣言は国内の産業界と国際社会からの圧力に板ばさみの中で妥協を重ねて到達した産物である。政治的妥協力のある福田首相らしい絶妙な中途半端さとも言えるが、妥協を繰り返すだけでは、次のG8サミットでイニシアティブをとることなどできない。すでに欧州中心に具体的にポスト京都議定書に向かって舵はきられているのだから。


ちなみに、講演の半分近くを費やした開発の話題は日本でも海外でもほとんど取り上げられていない。
取り上げられたのは、U2のBonoが援助を引き出すため、REDブランドのiPodを首相にプレゼントしたというニュースぐらいだ。
当たり前である。先日の高村外相の政策演説と比して何か目新しい内容はあったか?
繰り返し主張している保健システム強化のためにいくら拠出する予定なのか。
全員参加型の枠組みとは具体的にどのようなものを想定しているのか。何も分からない。

福田内閣は衆参逆転で基盤は極めて脆弱であり、産業界から見離されては政権運営が行き詰まるであろうことは分かる。しかし、忘れてはいけないことがある。政権維持と長期的な日本・世界の将来、どちらを重視するのか。天秤にかける間でもないだろう。G8 Summitの議長国を務めることの意味をもう一度問い直したい。

今回のWEFでは、国際社会における日本についてこんなセッションがもたれた。
日本は世界第2位の経済大国であるのに、グローバル、地域内の国際関係における将来の影響力が危惧されている。G8をホストするにあたって国際社会における立場を明確にし、際立たせることができるのか。国際社会からこんなことを心配されているのだ。

日本は本当に本気になっているのか?サミットを前に世界から心配されている。

Thursday, January 24, 2008

State of the World Children 2008: Child Survival

前回の投稿からしばらく経ってしまった。知らぬ間に時は2008年。
京都議定書の約束期間が始まった環境元年にして、PHC(Primary Health Care)の概念が成立したAlma-Ata 宣言から30年目の節目の年。日本にとっては、環境やGlobal Healthのテーマで大きな会議を2件もホストする重要な年だ。そして私個人にとっても、次のステップへの最後の年となる。

去年はなにやら大きすぎるテーマばかりを扱ってしまい、議論が浮世離れした感も否めないので、今年はもっと身近なテーマも含めてBlogを書いてみたいと思う。(それだけGlobalレベルでの動きが大きかった1年とも言えるのだが。)

と、書きつつも、2008年最初のテーマは、またでかい話だ。
今週、UNICEFが今年の世界子ども白書「State of the World Children 2008: Child Survival」を発表した。

今回のテーマは、直球ど真ん中。”Child Survival”である。
2007年の世界子ども白書のテーマは、2007年のGlobal Healthの流れそのものといっても過言ではない「子どもと女性」。女性のエンパワメントが子どもの健康に及ぼす影響を分析した。

全部読むのは大変だが、ざっと概観するには、こちらのThemes and Profiles、およびCharts and Graphsが分かりやすい。

統計そのものの価値(2007年の世界の子どもの死亡ははじめて1000万人を割り込んだ)もさることながら、UNICEFの政策の転換が鮮明になっているところが興味深い。

今回の白書の重要なポイントは、

・ 包括的プライマリ・ヘルス・ケアへの回帰
 > Health System Development (Governance)
 > Community-based Approach (Empowerment)
 > Continuum of care

政治的コミットメントグローバルパートナーシップの重要性

といった点だろう。

最も大きな変化なのは、過去、GOBI-FFやEPI、IMCI、ACSD(略語だらけだ・・・)など、Vertical programを得意としてきたUNICEFが、Horizontal Approach、まさに30年前のAlma-Ata宣言(包括的PHC)の理念に回帰したという点であるように思える。上からのGood Governanceと下からの村人のEmpowermentを組み合わせるという使い古された理想論を、90年代、2000年代にUNICEFをはじめとした国際機関、GOなどが強力に推し進めてきたVertical Programを整理し束ねることで実現していこうということが趣旨。

また、2007年からの流れを汲んで2008年は、母性(Maternal)から新生児(Neonatal)そして小児(Child)に至るまでのケアの継続性(continuum of care)を重視した内容になっている。これは昨年のWoman Deliver Conferenceで散々主張されたことで、再び説明する必要は無いだろう。

なんか、こうしたUNICEFの変化を見ていると、日本(JICA)はずいぶん先を走っていたのだなぁ、と気づく。(別にJICAの回し者ではないが・・・)
保健システム強化は以前からJICAの保健分野の最重点取り組み課題であるし、Continuum of Careの理念そのものである母子保健手帳(MCH Handbook)の普及活動には既に10年の実績がある(最初のインドネシアでの母子保健手帳プロジェクトは1998年から)。日本は自国の経験からUNICEFが気付くはるか前からこうしたアプローチの重要性に気付いていたのだ。(こうしたアプローチの重要性が実証的に確認されたのは最近なのだが。)

別に私は日本を褒め称えたいわけではない。ただ残念なのは、こうした良い先例が世界(特に欧米諸国)にはあまり広く知られていない点だ。あまり、というより、全然、かもしれない。これにはさまざまな理由が考えられるが、やはり最大の理由は日本のGlobl Healthの土壌が欧米に比べると発展途上であり、基盤整備が遅れていることに他ならないのではないか。特に実践科学としてのGlobal Health(研究、実践、政策の循環)、そしてそうした活動を支える一般社会のGlobal Healthに対する理解という点においては、大きく立ち遅れているように思われる。

この状況を変えるチャンスは、今だと思う。

理由は2つある。1つはこれまで述べてきたとおり、欧米の潮流が日本の考え方に接近したことである。そしてもう1つ、今年このいいタイミングに、日本は今回の白書でも述べられている「政治的コミットメント」を引き出し、「グローバル・パートナーシップ」の構築においてリーダーシップをとるチャンスに2度もめぐまれるためだ。

是非この機会を端緒に国内でもGlobal Healthの基盤整備を進め、社会の(単なる同情ではない)理解が深まっていってほしい。