Tuesday, November 27, 2007

Developing a common framework for action on Global Health

外務省政策演説「国際保健協力と日本外交 ―沖縄から洞爺湖へ―」
国際保健協力、指針づくり議題に 洞爺湖サミット(朝日新聞)
Minister says Japan to spearhead global health drive during G8 presidency(AFP)
Japanese Foreign Minister commits to global health for G8(Action for Global Health)

前回の記事で触れた通り、25日、日本の国際保健政策の全貌が発表された。
2008年は日本にとって、政策としてのGlobal Healthの転機となる年となりそうだ。

前回の内閣発表に続いて今回の演説で、重要なポイントであったのは、次の4点であると思う。

1. TICAD IV, G8で目指すのは、「国際行動指針の策定」
2. Horizontal + Vertical Approachの推進
3. 日本の経験を強調
4. 全員参加型(分野を超えた協力、ドナーを超えた協力)

予想通りの内容といえばそれまでだが、意義深いのは、2,3,4を踏めた「国際行動指針の策定を目指す」という事実そのものだろう。

簡単にまとめると、政府が言いたいことはこういうことだろうと思う。

国際社会にはすでにMDGsという大きな目標があるが、それに対する「取り組み方」として得られている共通見解はこれまでなかった。それがまさに近年、Horizontal vs Vertical Approachという構図として表れてきている。(このBlogの出発点のテーマだ。)
そしてこれを解決するため日本がたどり着いた提案は、まさに日本の経験のなかにあった。母子保健と感染症を中心にHorizontalな公衆衛生活動を軸として、Verticalなプログラムをその中に包括して行ってきた。その結果が世界最低の乳児死亡率と長寿世界一として表れている。だからこそHorizontal ApproachとVertical Approachの統合が肝要だ。
そして、世界全体の「保健」問題を解決するために、各々のドナー、中でも保健セクターのみが頑張っていても埒が明かない。すべてのStakeholderが集まって共通見解を持って取り組む必要があるだろう(より広い意味のSWApsということ?)。だから、その共通見解作りの場を日本がホストする会議で設けましょう。

また、Global Healthに関わる人間として重要なコメントとしては、「研究・開発の促進」が包括的取り組みの中で触れられた点だろうと思う。
近年、欧米ではGlobal Healthの話題が世界の主要雑誌で一斉に掲載されるなど、Global Healthへの学界の関心が急激に高まっている。The Lancetをはじめとして、主要な医学雑誌でGlobal Healthに関する良質な論文は急増しており、Evidenceの蓄積も進みつつある。しかし、残念なことに日本の学界はいまだ発展途上であり、そうしたプロセスに関わることができないでいる。日本は欧米に比べるとGlobal Healthの研究に関わる人の数が断然少なく、また研究費も少ない。また実践活動(開発援助)と研究活動とのリンクも薄い。実践的な研究を行える地盤がまだ整っているとはいいがいたい。こうした意味で、国策としてGlobal Healthの研究・開発へのテコ入れが宣言されたことの意味は非常に大きいだろうと思う。

そして、もう一つこの演説の中で私自身が気になったのは、申し訳程度に触れられていた「気候変動と健康」というテーマだ。
MDGsでは(そして開発援助の世界においても)、気候変動(MDG-7)と保健(MDG-4/5/6)は、それぞれ別問題として扱われ、その接点については無視されているが、今後極めて大きな問題となってくることは間違いない。ぜひ指針策定においても重要なテーマとして扱ってほしい。

Friday, November 23, 2007

Global Health on G8 Summit 2008

洞爺湖サミットで日本政府 「国際保健」主要議題に (MSN Sankei)
保健分野で国際協力を 母子手帳普及など指針策定呼び掛けへ(北海道新聞)

政府は11/22、来年の洞爺湖サミットで「Global Health」を主要課題として取り上げると発表した。
25日に開かれる国際シンポジウム「“PEOPLE AT THE CENTRE”:21世紀の医療と医療システムを求めて」において高村外相から政策提言として発表される。

今回の発表でのポイントは3点。

「人間の安全保障」の概念に立脚
「母子保健」「保健医療人材育成」を柱とした行動指針(特に母子手帳・保健師育成)
・ UN/GO/NGO/Private Sectorなどの「全員参加型」アプローチの枠組の提唱

日本がGobal Healthに関するInitiativeを発表するのは、1994年の人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)、1997年のBirmingham Smmitにおける国際寄生虫イニシアティブ(橋本イニシアティブ)、2000年の九州沖縄サミットにおける沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)以来4度目となる。

今回、日本が取り組む重点課題は、Woman Deliverで宣言したとおり、母子保健(Maternal, Newborn and Child Health)の分野。母子保健がSummitの主要課題になるのは実は初だ。母子保健分野は、まさに日本の戦後の公衆衛生において目覚しい成果を挙げた分野で、母子健康手帳や保健師の活動はその改善に大きく貢献した。これまでJICAなどを通し、日本は世界的にも母子手帳の普及を推進してきた。母子保健を政策の中心におくことは、MDGsで立ち遅れたMDG-4/5をテコ入れすることにつながると同時に、保健医療システムそのものの強化にもつながる。

一方、人間の安全保障(Human Security)は、1994年のUNDP Human Development Reportで初めて提唱され、現JICA理事長の緒方貞子氏がAmartya Sen氏とともに共同議長を務めた同名委員会で概念的に整備された考え方。これからの国際社会の安全保障のあり方として、国家安全保障(National Security)に加え、よりミクロ的な個々の人間の生存・生活の安全を保障しようというもの。日本やカナダなどの外交政策において主軸の1つと位置づけられている。

なお、25日のシンポのテーマは、「『人』中心の医療」="People-centred Healthcare"。
近年WHO/WPROが推進するPeople at the Centre of care Initiative (PCI)の中で提唱される考え方だ。混同しそうだが、いわゆる患者中心医療(Patient-centered Medicine)とは異なる。医療者や患者中心の医療でもなく、「人々」中心の「ヘルスケア」という考え方だ。
シンポジウムを日本語化する際に"Healthcare"を"医療"と訳さざるを得なかったのが惜しい。ヘルスケアという概念の中には、医療に加え、保健や福祉の概念も包含される。例えば、People-centred Healthcareには、健康リテラシを向上させる分かりやすい健康情報や健康教育へのアクセス、保健アクセスのdecision-makingのサポート、といった観点も含まれているからだ。

こうしたEmpowerment、Participation、Community/Family-centredといった考え方は、まさに包括的PHC(Alma-Ata宣言)への回帰であり、「人間の安全保障」の具体的処方箋ともいえると思う。
この会議を日本で開催することは、日本にとっては「人間の安全保障」へのcommitmentを内外へアピールするよい機会なのだろうと思う。

そして、その中で発表される新しいGlobal Health Initiative。よく考えてみるととてもうまくできている。

しかし、よく分からないのが、ノルウェー・英仏独加、Clinton Global Initiativeなどが推進するDeliver Nowキャンペーンとの関係性だ。Deliver Nowを統括するWHO|The Partnership for MNCH(PMNCH)の コーディネーションの元で日本のイニシアティブも推進されていくのか、それとも独自路線を歩むのか。「国連や各国政府やNGO、民間などの全員参加型の枠組 みの提唱」というが、母子保健分野には、そうした枠組がすでにある。25日のシンポでこのあたりの詳しい話が聞ければいいと思う。

Monday, November 19, 2007

Reducing the impact of climate change

IPCC 4th Assessment Report published!

世界中で異常気象が頻発し、気候変動に世界的な注目が集まる中、11月12-17日Spain, Valenciaで開催されたIPCC総会で、最新の第4次評価報告書が承認された。

今回の報告書では、3 Woking Groupsの報告に加え、書き下ろした報告として、近年の異常気象や生態系の破壊と気候変動との高い関連性を示し、今後20~30年が地球の将来の分かれ道となることを指摘した。来月Indonesia Baliで開催される気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)では、こうした知見を元に、ポスト京都議定書の枠組みを描く作業が行われることになる。

気候変動は、今後Global Health上の問題としても極めて大きなテーマとなることは間違いない。
第2作業部会報告書の中でも、気候変動が人間に与える影響の大きさについて検討され、中でもHuman Healthに対する影響について注目された。

以下、Executive Summaryを抜粋。

Climate change currently contributes to the global burden of disease and premature deaths (very high confidence).
Human beings are exposed to climate change through changing weather patterns (temperature, precipitation, sea-level rise and more frequent extreme events) and indirectly through changes in water, air and food quality and changes in ecosystems, agriculture, industry and settlements and the economy. At this early stage the effects are small but are projected to progressively increase in all countries and regions. [8.4.1]

Emerging evidence of climate change effects on human health shows that climate change has:
• altered the distribution of some infectious disease vectors (medium confidence) [8.2.8];
• altered the seasonal distribution of some allergenic pollen species (high confidence) [8.2.7];
• increased heatwave-related deaths (medium confidence) [8.2.1].

Projected trends in climate-change-related exposures of importance to human health will:
• increase malnutrition and consequent disorders, including those relating to child growth and development (high confidence) [8.2.3, 8.4.1];
• increase the number of people suffering from death, disease and injury from heatwaves, floods, storms, fires and droughts (high confidence) [8.2.2, 8.4.1];
• continue to change the range of some infectious disease vectors (high confidence) [8.2, 8.4];
• have mixed effects on malaria; in some places the geographical range will contract, elsewhere the geographical range will expand and the transmission season may be changed (very high confidence) [8.4.1.2];
• increase the burden of diarrhoeal diseases (medium confidence) [8.2, 8.4];
• increase cardio-respiratory morbidity and mortality associated with ground-level ozone (high confidence) [8.2.6, 8.4.1.4];
• increase the number of people at risk of dengue (low confidence) [8.2.8, 8.4.1];
• bring some benefits to health, including fewer deaths from cold, although it is expected that these will be outweighed by the negative effects of rising temperatures worldwide, especially in developing countries (high confidence) [8.2.1, 8.4.1].

Adaptive capacity needs to be improved everywhere; impacts of recent hurricanes and heatwaves show that even high-income countries are not well prepared to cope with extreme weather events (high confidence). [8.2.1, 8.2.2]

Adverse health impacts will be greatest in low-income countries. Those at greater risk include, in all countries, the urban poor, the elderly and children, traditional societies, subsistence farmers, and coastal populations (high confidence). [8.1.1, 8.4.2, 8.6.1.3, 8.7]

Economic development is an important component of adaptation, but on its own will not insulate the world’s population from disease and injury due to climate change (very high confidence).
Critically important will be the manner in which economic growth occurs, the distribution of the benefits of growth, and factors that directly shape the health of populations, such as education, health care, and public-health infrastructure. [8.3.2]

第2作業部会は、気候変動が人間の活動に与えるインパクト(Impact)、そしてそれらへの適応(Adaptation)、および脆弱性(Vulnerability)の評価をテーマとして調査・研究を行っている。

Impactとして、気候変動に伴い増加する健康リスクとして様々なものが挙げられており、Adaptation上の問題として、熱波やハリケーンなどの気候変動による健康被害に対する対策は先進国においても十分ではないことが指摘されている。しかし、そうした被害が最も大きくなるのは、途上国においてである。Vulnerable groupsとして、都市部の貧困層、高齢者と子ども、伝統的社会、零細農家、そして海岸部人口が挙げられている。
そして何より重要なのは最後の点である。
経済開発はAdaptationの重要な要素にはなるが、それ自身が世界の人々を気候変動による健康被害から守るわけではない。極めて重要なのは、経済開発がいかに行われるかということ、つまり、成長の利益の配分をいかに行うか、そして教育、ヘルスケア、公衆衛生インフラといった人々の健康をダイレクトに形成する要素をいかに充実させるかということだろう。

Reducing the impact of climate change (Brown H. Bull World Health Organ. 2007;85:821-900)

来年5月に発表されるWorld Health Report 2008のテーマは「気候変動と健康」となった。
気候変動リスクに対応するため、保健医療システムの強化をいかに行うかが主なテーマとなる。
またWHOは、12月のBali会議で、気候変動から健康を守る世界的な枠組み(Global Framework on Protecting Health from Climate Change)について発表する予定だ。

IPCCの報告で、気候変動が健康に与える影響の大きさは想像以上に大きいであろう事が分かってきた。気候変動は、H5N1、Health-related MDGsといったテーマに匹敵する、あるいはそれを超えうる公衆衛生上の大きな挑戦となるかもしれない。

さて、日本に眼を向けてみよう。
日本はこれまで、気候変動については、京都議定書をはじめ国際社会においてリーダーシップを発揮してきた。環境問題は、産業界も一体となりinnovationが続いており、もはや日本にとって得意分野の一つともいえる。当然、来年の洞爺湖サミットにおいても環境は最重要課題と位置づけられている。

一方で、先日、政府はWoman Deliver Conferenceで、日本はGlobal Healthにおいてもリーダーシップを発揮する、TICAD IV・洞爺湖サミットの主要課題とすると宣言している。

気候変動と健康-いまだ世界の対策が遅れているこのテーマは、実は日本にとってはリーダーシップを発揮できる舞台なのではないか。
途上国から出発し、戦後、高度成長を経験し、工業国、そして長寿国として有名になった日本にとって、長年、「環境と健康」は大きなテーマであった。こうした「日本の経験」は世界に還元しうるものであるし、積極的に還元していく責任を持っているだろうと思う。
ぜひ日本はこのテーマについて積極的にリーダーシップを持って取り組んでいってほしい。

Friday, November 16, 2007

Health at a Glance 2007

OECD加盟国の保健医療は改善しているが、慢性疾患の管理の改善が必要
-必要な眼底検査を受けている糖尿病患者は半数のみ-

13日、OECD諸国の健康指標に関するデータ集「Health at a Glance 2007(図表で見る世界の保健医療2007)」が発表された。

さまざまな保健関連指標をグラフや表でクリアカットに見せてくれ、非常に分かりやすい。
Web版は無料でこちらから利用できる。

日本はというと・・・
0歳児平均余命世界一は堅持。やはり女性が貢献。
65歳平均余命は男女とも世界一(23.2、18.1)。
虚血性疾患で入院後30日以内に死亡する割合も3%と世界最低。
乳児死亡率も世界最低水準(2位)。未熟児の死亡も世界最低。
医療機器の普及率(CT, MRI)は2位のアメリカに倍以上の差をつけてトップ。(ただし放射線治療の施設の普及率は高いとはいえない。)
肥満率(BMI>30の割合)も世界最低。肥満増加率もダントツで最低。
   (なんとOECD平均は14.6%!!最悪のアメリカにいたっては32.2%!!!!!!!デブばっかり・・・。)
アルコール摂取量はOECD中6番目に低い。
平均在院日数は、OECD平均の2倍以上でダントツ長い。
医師にかかる割合もOECD平均の2倍以上(年間13.8回)で第1位。
一人当たりの医療費は、OECD平均以下の低水準。
国民総医療費がGDPに占める割合も平均以下。
一人当たりの医療費増加率もOECD諸国中4番目に低い。
医療費の内訳は、日本は治療・リハビリの占める割合が最も高く、公衆衛生の占める割合が低い。
腎疾患治療率は、腎移植は最低水準だが透析を含めると最高。
(糖尿病によって腎不全患者は現在急増中。腎透析は非常に高額な治療だが、高額医療費として国庫から大部分が賄われている。お陰で日本の腎透析にかかる医療費は1兆3千億円近い。ちなみに日本の公立学校の人件費の総額は1兆8千億円程度。)

一方で、
収入格差(Gini係数)は、OECD平均を超え、ジリジリと増加中。
人口あたりの医師数は0.2%とOECDで4番目に低い(OECD平均0.3%)。
看護師数は、0.9%とOECD平均(0.89%)とほぼ同じで増加率(2.5%)は3番目に高い。)
喫煙率(29.2%)は、OECD(mean 24.3)で5番目に高い。
低出生体重児(<2500g)出生率は、なんとOECD中2番目に多い。(原因として若年女性の喫煙率と高齢出産の増加が指摘されている。)
自殺率(10万人中19人)は、OECD(mean 12)中3番目に高い。

そして・・・
公的医療費のうち、公衆衛生・予防医学に使われる割合はというと・・・実は7番目に低い。なんとOECD平均の約半分(3.1 vs 1.6 [%])。

日本は、保健医療福祉のなかでもかなり「医療」に偏った社会であることがみてとれる。
それなのに医師の数は最低レベル・・・。でも医療機器はダントツで整っている。
なんとも矛盾した構造だ。

医療費削減と言われて久しい今日この頃。
世界水準から見れば、医療費はむしろ安い部類に入り、医療費増加率も低い日本。
更に世界中の国々が医療費を増やす方向に転じているというのに、唯一時代と逆行する日本。
数字を見れば、アメリカの医療がいかにボロボロか分かるのに、医療制度までアメリカ崇拝をやめない日本。
そしてその尊敬してやまないアメリカが本気で皆保険制度を検討し、選挙の最大の焦点となっている中、逆に自由化論議が巻き起こる日本。
10年前の世界を基準に議論が進んでいるようにしか思えない。

国民も「混合診療を全面解禁しろ」とマスコミに踊らされる前に、全面解禁したらどういった状況が生まれるのか、過去の世界の歴史を踏まえてよく考えるべきだろう。今度ばかりは厚労省も頑張ってほしい。

一方で、先日の混合診療違法判決は妥当なものだったと思う。
裁判官は、社会のニーズに合わせた法の解釈(つまり法社会学的な判断)をしたわけではなく、あくまで厳密な法解釈(概念法学)に基づいて結論を下している。裁判官が指摘したのは「現状の法律においては」混合診療を認めない理由が無い、ということ。決して混合診療解禁を助長するものでも否定するものでもないのだろうと思う。
しかし、残念なことに社会の一般的な受け取り方は異なっている。判決の具体的な検討も無く、その事実のみをもって違法判決が「混合診療解禁に一歩近づいた」と考える向きが多い。
混合診療を全面解禁するのか、それとも一部解禁するのか、全面禁止を継続するのか。
これまで混合診療が禁止されてきた理由、そして解禁した諸外国における結果などを踏まえて、もっと深い議論が起こってほしい。

p.s.
ちなみに、お国柄が出て面白いのは、「よい健康状態」と報告した人の割合(主観的な健康度)。
日本は下から2番目、そして、アメリカは何と!!上から2番目!!!!!!
日本人の心配症はさておき、アメリカは3人に一人がメタボっている世界の(肥満)超大国。
なのに、健康状態は世界で2番目にいい・・・?
能天気というべきか、何と言うべきか・・・。