Tuesday, December 26, 2006

The Challenge of Global Health (From Foreign Affairs) : vol.3

Merry Christmas!

The Challenge of Global Health (Foreign Affairs - Laurie Garrett)

3. MORE, MORE, MORE

 近年、米国の個人、企業、財団の寛大さは、驚異的な割合で増加した。the Bill and Melinda Gates Foundationは、2006年8月現在、設立から6年の間で66億ドルをGlobal Healthプログラムに拠出した。その総額のうち約20億ドルは、結核、HIV/AIDS、その他の性感染症(STD)に関するプログラムに充てられている。1995年から2005年までの間、米国の慈善財団からの寄付総額は3倍に増加し、そのうち国際的なプロジェクトの占める資金の割合は80%に及ぶ。そしてその3分の1以上がGlobal Health関連である。政府とは別に、米国人は74億ドルを2005年の災害救援に、224億ドルを国内外の保健関連のプログラムまたは研究のために寄付している。

 一方で、Bush政権は、2001年には114億ドルであった政府開発援助(ODA)を2005年には、275億ドルまで増額している。このうち、HIV/AIDSおよびその他の保健関連プログラムへの拠出は、Iraq、Afghanistan関係以外では最大の割合となっている。そして2003年の一般教書演説において、大統領George W. Bushは、150億ドル規模のHIV/AIDS、結核、マラリアに取り組むための5カ年計画の創設を求めた。同年5月の議会で承認された、この"the President's Emergency Plan For AIDS Relief" (PEPFAR)は、まずHIV感染者へARVを供給することを目標とし、16カ国を対象とする援助である。これまでにおおよそ85億ドルが使用されている。PEPFARの目標は野心的であり、2008年初等までに200万人にARVを提供し、さらに1000万人に何らかの形のケアを提供するというものである。2006年3月現在、PEPFARが資金提供するプログラムにより、56万1千人の人々がARVを受け取っている。

 しかし、この寄付の急激な増加は、米国によるものだけではない。海外のすべてのOECD(経済協力開発機構)加盟諸国からの開発援助は2001年から2005年にかけて飛躍的に増大しており、中でも保健分野の増加の伸び率は最大である。そして2002年、ユニークな分散型資金調達メカニズムが設立された。国連システム、各国政府双方から独立した"the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis, and Malaria"(世界エイズ結核マラリア対策基金)である。この基金は、各国政府、慈善団体・個人、そして様々な企業の寄付の枠組からのサポートからなる。この基金の誕生以来、66億ドル分のプロポーザルが受理され、29億ドル分が配布されている。そのうち5分の1以上は、中国、Ethiopia、Tanzania、Zambiaの4ヶ国が占めている。基金が推計したところによると、現在、すべてのHIV/AIDS対策プログラムの20%、結核・マラリア対策の66%に資金を供給している。

 基金の一員である世界銀行は昔、人々の健康はミッションである全般的な経済発展に伴って改善されると考えており、保健問題にはほとんど興味を示してこなかった。しかし、Robert McNamaraが総裁を務めた時期(1968~1981)において、世銀は少しずつ一部の保健プロジェクトに直接投資をするようになる。たとえば、西アフリカにおける河川盲目症の予防などである。1980年代終わりまでには経済学者は、熱帯地域や絶望的に貧しい国々における病気そのものが開発と繁栄の重大な障害であること認識するようになり、1993年には、世界開発報告書の中で公式に方針転換を表明した。次の10年において世銀は着実に保健関連の支出を増やし、2003年には34億ドルにまで達した。そのうち8700万ドルがHIV/AIDS・結核・マラリア対策、2億5000万ドルが小児・母子保健対策に充てられている。その後、少しずつ割合は減少し、2006年現在21億ドルとなっている。また近年、IMF(世界通貨基金)・OECD・G-8とともに世銀は、AIDSやその他の病気で大きな打撃を受けた多くの負債を抱えた貧しい国々に、支払うべきであった負債分を代わりに保健を含む重要な公共サービスに充てることを条件に、負債の帳消しを行った。

 2004年12月、アジアを津波が襲った際、世界はグローバル化した寛容の深さを目撃した。大半が個人によって推計70億ドルがNGO、教会、政府に寄付されたのである。そのうち保健プログラムの占める割合はわずかなものでしかないが、多くの鍵となるGlobal Healthの立役者たちは、この寄付金によって大きく強化された。

 2006年1月、鳥インフルエンザの拡大の脅威に伴い、その世界的なPandemicを回避することを期し、35ヶ国が19億ドルをその研究やコントロールの努力のために拠出することを誓約した。それ以降、G-8諸国、特に米国は、東南アジアおよびその他の地域で、疫学サーベイランスや疾病コントロール活動を強化するため追加予算を拠出している。

 そして、貧しい国々自身もついに自身の保健支出を増加させはじめた。一部は公的資金の社会サービスへの分配が不当に低いという批判に応えるためである。たとえば、1990年、サハラ以南アフリカの国々で一般的に保健支出に充てられるのは国家予算の3%以下であったが、それとは対照的に、2003年にはTanzaniaでは13%が保健関連のモノ・サービスのために予算計上された。中央アフリカ共和国、Namibia、Zambiaでは12%を占めており、Mozambique、Swaziland、Ugandaでは約11%である。

 次に、大半の人道的あるいは保健関連NGOにおいては、急激なGlobal Health拠出の伸びが巨額の恩恵となり、組織の数および活動の範囲とその深さが大きく進展している。ある信頼のできる推計によると、現在AIDS関連のみで6万のNGOがあり、より一般的なGlobal Health領域においては、その数は更に多いらしい。事実、貧しい国々の保健省は、彼らの地で行われる外国組織による活動を追跡できないことに鬱積を募らせており、こうした組織に対し政府の政策や優先度に歩調をあわせてサービスを提供し、リソースが少ない地域での重複を避けるよう約束させている。

<続く>
...4. PIPE DREAMS

Monday, December 25, 2006

The Challenge of Global Health (From Foreign Affairs) : vol.2

The Challenge of Global Health (Foreign Affairs - Laurie Garrett)

2. SHOW ME THE MONEY


 近年のFundの急激な増加はHIV/AIDS Pandemic(大流行)を直接の帰結として始まった。数十年の間、公衆衛生学の専門家は開発途上国と先進国との間のケアという問題に関する深遠な不公平という問題に直面してきた。ヘルスワーカーは不公平を嫌うが、保健問題は貧困と開発というより広い問題にネストされているがために紛れもない事実であるとして受け入れる傾向にあった。一方、西側のAIDS活動家や医師、科学者は開発途上国の経験を持っている人は少なく、それがゆえに不公平を目の当たりにした際、声を上げて激しく憤った。

 革命は1996年、カナダのVancouverで開催された国際エイズ会議に始まった。科学者たちは、抗HIV薬(抗レトロウィルス薬、ARVとして知られる)の併用療法が感染者体内におけるウィルスの広がりを劇的に減少させ、より長く生きることができるようになるという、気分を引き立たせる証拠を発表した。実際、一夜にして何万もの先進国の感染者の男性・女性が新しい治療を受けられるようになった。そして1997年中頃、AIDSの目に見える恐怖は欧米からはほとんど消えた。

 しかし、その薬は年間14,000ドルかかり、さらに検査と診察のために更に年に5,000ドルかかるという代物であり、世界の大部分のHIV陽性人口にとっては手が出るようなものではなかった。1997年から2000年にかけて、この問題を解決するため、世界中の活動家により、製薬会社に価格を下げさせジェネリック薬(後発医薬品:特許が切れた薬品を安価で生産したもの)の製造を認めるよう働きかける運動がゆっくりと始まった。活動家は時のクリントン政権と、そのカウンターパートである先進国グループG8に対して、ARVを買うための予算を計上し、それらを貧しい国々に寄付するよう求めた。そして1999年までにサハラ以南アフリカにおける保健関連プログラム(HIV/AIDS治療を含む)への寄付総額8億6,500万ドルを超えるまでになった。そしてその額はわずか3年で10倍以上になった。

 2000年には、2000人の活動家、科学者、医師、患者が別の国際エイズ会議のために南アフリカ、Durbanに集まった。その場において前南アフリカ大統領、Nelson Mandelaは、ARVアクセスの問題を教訓的な言葉で定義づけた:国際社会は、Harare、LagosあるいはHanoiの貧しい人々が、LondonやNew York、Parisの金持ちが生き続けることができる治療を受けられずに死ぬことは許さないということを言葉と行動ではっきり示さなければならない、と。HIV/AIDSに関する途上国への寄付は1999年に3億ドルに達し、これは、開発援助全体の0.5%にあたると世界銀行の経済学者Mead Overは言う。しかし彼は、これらの総額を”哀れなほど不十分”と特徴づけており、HIV/AIDS Pancemicによって、アフリカ諸国は直接的な医療費と労働と生産性という間接的な損失により毎年約50億ドル支出しなければならないと指摘した。

 2001年、経済学者Jefferey Sachs率いるHarvard大学の128人のグループが試算したところによると、サハラ以南アフリカにおいてARVの供与を受けているのは4万名を下回る状況であった。約2500万人がHIVに感染し、そのうち約60万人がARVを至急必要としているのに、である。米国国際開発局(USAID)のDirector、Andrew Natsiosは、下院国際関係委員会(the House International Relations Comittee)で、アフリカ人は、時計も持っていないのだから、薬の適切な併用療法を適切な間隔で飲み続けることなど不可能であると述べ、そうした薬を配布するというアイデアを却下した。HarvardのグループはNatsiosのコメントを人種差別であるという烙印を押した。その上でSachsは、主張されているような貧しい国々でHIV/AIDS治療を広げる障害は”存在しないか克服可能である”とし、”最初の1~3年間に毎年11億ドル、その後、2005年までに毎年33億~55億ドルの支出”で、300万人のアフリカの人々がARVの恩恵をこうむることができる(2005年度末)と主張した。

 Sachsは更に、マラリア、結核、小児の呼吸器・下痢感染症への外国支援予算は110億ドル、AIDS孤児のサポートのために10億ドルが必要であるとした。そして、HIV/AIDS感染予防は、毎年30億ドルで取り組むことができる、と付け加えた。言い換えれば、毎年200億ドルを優に下回る予算で、世界は真剣にGlobal Healthの推進を開始することができる。

 昔はあつかましい要求であるみなされていたものが、実際、たった5年後の今では、その要求を上回るまでになっている。HIV/AIDS援助は、効果的に、より大きなGlobal Public Healthの課題の陣頭指揮を執るようになった。しかし、300万人のアフリカ人が2005年末までに容易にARVの恩恵をこうむるというHarvard大学のグループの主張は楽観的過ぎた。WHOの"3 by 5 initiative"は、アフリカのみならずすべての貧困・中進国を合算しても300万人のターゲットのうちの半分しか達成することはできなかった。そうであったとしても、現在、HIV/AIDS Pandemicに奮起される形で保健援助への驚くべき推進力が構築され、それは弱まる兆しを見せていない。

<続く>
... 3. MORE, MORE, MORE

Sunday, December 24, 2006

The Challenge of Global Health (From Foreign Affairs)

前回の記事に引き続き、Global Health関連。
じつはこちらが本題。

2007年1月・2月号のForeign Affairsにて、興味深い論文が発表された。(全文無料で公開)

テーマは、”The Challenge of Global Health”

この”Foreign Affairs”は、アメリカの外交政策の奥の院とも呼ばれる外交評議会(Council on Foreign Relations)が発行する雑誌で、アメリカの外交政策、ひいては今後の世界の国際関係を占う意味で極めて重要な意味を持つ。詳しくはWikipediaを参照。

隔月で発行されるこの雑誌の今回のTopの記事として、近年のGlobal Health(国際保健)を取り巻く大きな変化が取り上げられている。
著者は、世界で唯一、ピューリッツァー賞(2度)、ピーボディー賞、ポーク賞というthe Big "P's"すべてを受賞しているジャーナリスト、ローリー・ギャレット(Laurie Garrett)
Global Pubic Health(国際公衆衛生)の分野を専門としており、この分野では、極めて大きな影響力のあるジャーナリストの一人だ。そんな彼女が取りあげたのは、めまぐるしく変化する現在のGlobal Healthが抱える根本的課題である。

前回の記事では、近年、特にこの5年間における国際関係におけるGlobal Healthの重要性の高まりと大きな資金の流れについて触れた。
実は前回の記事は、この記事のための前置きであり、今回の記事は、前回の期待に溢れた記事の内容を大きく覆すものだ。

この最新の論文においては、こうした劇的な変化の裏でGlobal Healthのアプローチが抱えている大きな構造的な問題を突いている。長いが、非常に示唆に富んだ内容である。
(高尚な文章だったので、翻訳が難しく読みにくくてごめんなさいね。)

以下 邦訳<一部。今後連載予定です。>

1. BEWARE WHAT YOU WISH FOR

 10年も経たないほど前まで、Global Healthにおける最大の問題は、世界の貧困や健康を損なわせる複合的な災禍に対処する利用可能な資源の欠如であったように思われる。しかし、現在は近年の公共・民間部門からの前例のない桁外れな寄付の増加のおかげで、過去にないほど巨額の資金が健康問題に対し投じられるようになっている。しかしながら、この資金が利用されている取り組みというのは、大部分は協調性がないものであり、大半が全般的な公衆衛生ではなく、ある特定の目立った疾患に集中している。 こうした状況には、現在の寛容の時代をただ短期的なもので終わらせかねないというだけでなく、現場で自体をさらに悪化させかねない深刻な危険がある。

 歴史上初めて、世界は巨額な資金を貧困による病気(the disease of poor)の克服に費やそうという体制になっているという事実にも関わらず、この危険は存在する。開発途上国の健康問題に取り組むことは、さまざまな理由によって、この5年間多くの国の外交政策の鍵となる特徴であった。HIV、結核、マラリア、鳥インフルエンザなどの主要な死因の拡大をストップすることを人道上の義務としてみる人もいれば、それを開かれた外交の形としてみる人もいた。そしてまたある人は、病原体に国境がないことから、それを自己保護のための投資としてみる人もいた。各国政府は、Bill and Melinda GatesやWarren Buffett(彼らの今日の疾病に対する戦いへの貢献は圧倒的なものである)に代表される民間ドナーの長いリストに加えられる形となっていた。

 こうした人々や機関の努力のおかげで、現在では数十億ドルが保健支出のために利用可能となった。そして、数千のNGOや人道的なグループがそれらを利用しようと競っている。しかし、お金より必要とされてるものがある。開発途上国の公衆衛生の改善には国、ヘルスケアシステム、そして最低限の基準を満たすローカル設備が必要である。そして何十年もの無視された間にに地域の病院、診療所、検査室、医学校、そして保健人材(health talent)は危険なほど欠陥のあるものになってしまったために、現場に溢れている資金の大半は現在結果を出すことなく漏れ出てしまっている。

 また、全体として、援助が短期的な非常に多くのターゲットに縛られているケースが多すぎる。具体的には、特異的な薬を受け取る人の増加、HIV陽性と診断される妊婦数の減少、病気を媒介する蚊から子どもを守るための蚊帳数の増加といった目標のことである。実質的に公衆衛生が改善するためには、2,3とは言わないが、少なくとも一世代かかる、そしてそうした取り組みは特定疾患よりも、集団の全般的な厚生に影響を与える幅広い尺度に焦点をおくべきであるということを理解しているドナーはほとんどない。

 更に言えば、世界では400万人を優に超えるヘルスケアワーカーが不足しているという事実はいつも無視されている。先進国では、人口の高齢化が進み、今まで以上に医学的な配慮が必要な時代を迎えようとしており、開発途上国からローカルの保健人材を搾取している。すでにアメリカの5人に1人の臨床内科医は外国でトレーニングを受けた人々であり、最近JAMA(アメリカ医師会誌)に発表された研究では、もしこの傾向が続くと、2020年には、80万人の看護師と20万人の医師が不足する可能性があると指摘している。たとえ米国や他の富める国が、急激に国内の医師・看護師の給与とトレーニングプログラムを増やしたとしても、15年以内には病院のスタッフの多数派は、途上国または中進国に生まれ、そこでトレーニングを受けた人々となる可能性が高い。こうした労働者が西側諸国へ溢れだせばだすほど途上国は一層絶望的な状況になる。

 しかし、こうした問題に取り組むために必要な明確なビジョンのあるリーダーシップは悲しくも欠如しているのが現状である。昨年一年間において、Global Healthを展望するリーダーシップのポジションは、戦略が見通せない前例のない時期を作り出し、すべて入れ替わった。5月のWHO長官Dr. Lee Jong-wookの不慮の死により、彼の後継者選びのため、いままでにないプロセスを取らねばならず、世界中の保健問題の唱道者らは、重大で長いこと無視されてきた問題を問うこととなった。誰が健康問題と戦うことを統率していくべきか、だれがその賠償をすべきか、そして、最も採用すべきの戦術・戦法は何なのか?といったことである。

 その答えはそう簡単には思いつかない。11月、中国のDr. Margaret ChanがLee氏の後継者として選出された。Chanは、香港の保健局長として、管轄地のSARSと鳥インフルエンザの対策をリードし、後にWHOの伝染病部門の舵取りを行った。しかし、彼女は選出後の声明の中において、彼女の組織(WHO)は、いま深刻な競争と新しい挑戦に直面しているという認識を示した。そして、この文書の時点において、世界エイズ結核マラリア対策基金においても新たなリーダーが不在の状態であった。1ヶ月に及ぶ長い選挙のプロセスに300名を超える候補者がポストをめぐって争い、委員会は、基金のミッションや将来の方向性に関するつまらない口論で泥沼化した。

 一方で、新たに設立されたGlobal Healthプロジェクトのほとんどは、組織の有効性や持続性をアセスメントする方法をはじめから持っているわけではない。更に、最初のパイロットプログラムを超えて規模を拡大したプロジェクトは更に少ない。そしてそのほとんどすべては、先進国の住民によりデザインされ、運営・実施されている(ローカルの人材や地域との共同作業ではあるが)。非常に成功しているプログラムの多くは、脆弱な国の中で、ほとんど政府から干渉を受けずに活動している外国のNGOやアカデミックグループである。事実上、世界の貧困国に、彼らが望むものを表明したり、どのプロジェクトがニーズに沿うか決めたり、地域の技術を採用したりすることを許す余地はない。そしてほとんどすべてのプログラムは、引き上げ戦略や地方行政の依存に対する防衛策を持っていない。

 その結果、保健の世界は速いスピードで道の分岐点へ差し掛かっている。今後来たる数年は、現場の公的・民間の努力により、Marshall Plan(アメリカによる戦後の西欧復興計画)に匹敵する何十億もの人々の劇的な健康状態の改善がみられるか、あるいは貧しい社会が更に深い困難に陥り、良かれと思って行った更なる諸外国からの干渉が失敗するかであろう。どんな結果に終わるかは、開発途上国のヘルスワーカーのローカルの人材プールを拡大することができるか否か、崩壊しかけた、国そして世界の保健インフラを回復・改善することができるか、そして疾病予防・治療に関するローカルおよび国際的な効果的システムが考案できるかということにかかっている。

<続く>
...2. SHOW ME THE MONEY

Increasing Presence of Global Health

近年のGlobal Health(国際保健)の動向に関し、Reviewを書いてみました。
重要な事項に関し、モレ等も多くあるかと思うので、いろいろご意見いただけたらうれしいです。


■ Increasing Presence of Global Health

2005年、2006年は、Global Healthが世界の中心的課題として位置づけられ、官民両面において、大きな前進をした年と言われる。

□ Bill and Melinda Gates Foundation

民における大きな前進は、ひとつはBill and Melinda Gates Foundation(B&MGF)という巨大財団の存在。いわずも知れたMicro$oftの会長、Bill Gatesが個人資産の大半を寄付する形で作られている財団であり、途上国の国家予算をゆうに超える資産を有している。
この財団は、Global Health分野を中心に、社会開発分野におけるプログラムを実践する団体に多額の寄付を行っていることで有名である。(Gates氏自身、Microsoftの仕事のほかに、WHOやUNICEFの関係者らとたびたび会合したり、世界の国際開発を決定付ける重要な国際会議に出席したりしている。)

このB&MGFは、今年6月、2度も世界の新聞の1面を飾った。
1つは、Bill Gatesと長者番付1位を争う投資家Warren Buffet氏が自己資産の80%にあたる370億ドル(4兆円!!寄付額としてはアメリカ史上最大)を寄付すると表明したこと。
もう1つは、今年Bill Gatesは、2008年6月にMicrosoft会長の座を退いて、B&MGFの活動に専念することを表明したこと。
この2つのBig Newsは、世界にGlobal Healthという課題の重要性を強く印象付ける結果となった。

あまり日本に関係なさそうなこの財団だが、実は意外なところでつながりがある。
日本では意外なほど知られていないことだが、B&MGFのGlobal Health ProgramのChairmanは、なんと日本人。
ミシガン大学医学部の内科医長、巨大製薬企業Glaxo Smith Kline (gsk)の研究開発部門チェアマンという異色の経歴を持つ山田忠孝氏。Bill Gatesがマネジメント力抜群と賞賛する方なのだそうだ
(関係ないですが、gskといえば、抗エイズ治療薬(ARV)の途上国での値下げなどでCSR Rankingが高い企業としても有名。ブランドイメージを考えてのことかとは思いますが。NPOから非難の的にされることもあったりなかったり・・・。[参考]

このB&MGFの活動やBuffet氏の”投資”には、いろいろ批判を呈する人もいる。
しかし注目すべきは、この活動の結果彼自身が利益を上げたかとか、企業に有利に働く、だといかいった点ではないのではないか。
少なくともこの途方もない巨額の資金が世界の貧困削減にあてられているという事実そのものだと私は思う。あなたに、一生懸命自分の人生をかけて稼いだ自己資産の大半を寄付する勇気があるか。そんな声が両者から聞こえてきそうだ。(もちろん彼らは大半投資しても普通の生活をするには十分すぎる自己資産は残すわけだが。笑)


□ Bono (U2)

そしてもうひとつ、民における大きな前進としては、ロックバンドU2のBonoの活動が挙げられる。
(Bill Gates, Melinda GatesとともにBonoは2005年のTIME誌のPerson of the Yearに選ばれている)
Bonoは、先進国にAfrica諸国の債務帳消しを求める活動(JUBILEE 2000)に携わり、その知名度と、世界の政界とのつながりを駆使して、2005年のG8で先進国に債務帳消しを約束させた。2005年、G8開催前に世界8ヶ所で同時開催したLive 8も彼がOrganizeしたものだ。

彼の活動を際立たせているのは、それが単なる世界平和を祈る音楽家としての活動の域を超えて、確かな国際開発の知識に裏打ちされた政策提言活動である点だ。政治家・活動家としての手腕は高く評価されており、James Wolfensohn後の世界銀行総裁の候補者としても有力候補者として名前が挙がったほどだ(噂ではなく、世銀関係者が事実と認めている)。また、2005年のノーベル平和賞の候補者としても名を連ねた。

歴史的偉業を成し遂げた後、彼は2006年1月、HIV/AIDSのための新ブランド"Product RED"を創設した。このブランドは、パートナー企業が「RED」のロゴ入り製品を特別に企画し、その販売収益の一部を世界エイズ結核マラリア対策基金(GFATM)に継続的に寄付するという画期的な仕組みを持っている。AMEXやAppleといった大企業がパートナー企業として参加しており、GFATMにおける民間企業の貢献を大きく後押しすることは間違いない。(GFATMは、政府、民間企業、個人からの寄付によって成り立っているあ、これまで民間企業の寄付の割合は低かった。)


□ 官における前進

官における前進としては、第1に、前述のとおりG8での重債務国の債務帳消しが約束されたこと。
特筆すべきは、この歴史的な合意の裏には、民の力(Civilian Power)があるということ。
Bonoによる活動のほか、「ほっとけない世界の貧しさキャンペーン(Global Call to Action against Poverty)」によるホワイトバンドの活動は、日本でも社会現象となった。
(後に資金流用疑惑で批判の対象ともなったが、私はあれが妥当な批判であったとは思えない。日本では、いまだ”非営利”=ただのボランティア活動と勘違いされている面があり、Professionalな組織としての認識が薄い。行政組織や民間企業と同様に、活動には資金が必要であるという当然至極な視点が抜け落ちている。Accountabilityという点で問題は確かにあったかもしれないが、そうした批判をするのであるならば、活動自体の本質的な意義・社会に与えたインパクトを理解したうえで行う必要があるのではないか。)

また、先進国各国によるHIV/AIDS対策のイニシアティブも活発化してきている。
中でも2003年よりスタートしたアメリカ政府のHIV/AIDSに関する緊急計画(PEPFAR Project)は巨額(1.7兆円規模)である。
(毎度のごとく、この計画にもさまざまな批判はなされている。事実、私自身ケニアでGFATM系のARTに関わった際にもPEPFARの方法論においては、いくつか疑問を感じる点はあった。)

□ Pandemic flu

そして、Global Healthのプレゼンスを高めているのは、HIV/AIDSのみではなく、H5N1 influenzaの大流行Pandemicが近づいていることにもよる。
Pandemicによる死者数は最大で1億5千万人に上る(日本の人口以上!)と推定されており、国際公衆衛生史上最大の危機とも言われる。
現実感がないが、実際、1918年のSpanish flu(スペインかぜ)では、実際4千万人~5千万人の死者数を出し、このpandemicの影響で第1次世界大戦終戦が早まったと言われる。
Pandemic直接の影響のみならず、2次的な衛生環境悪化も大きな問題とされている。前述のSpanish fluのpandemicでは、死者数に対し埋葬が追いつかず、腐敗による衛生環境の悪化が大きな問題となった。
前回のSpanish fluの時代に比べ、現代は、Globalizationが進行した社会である。2003年のSARS outbreakで明るみとなったが、感染症の伝播速度は、昔に比べはるかに急速になっており、Spanish fluを超える影響が懸念されているのが今回のH5N1 fluである。世界経済に与える影響も当然無視はできない。

■ 結語

HIV/AIDSとH5N1 fluは、どちらも人類の存続にかかわる事態であり、そのために世界各国は本気になった。また世界の貧困問題が近年脚光を浴びるの理由の一つに、極端な貧困、格差の存在がterrorismの温床になるという先進国の怖れがあるのも事実だ。
つまり、Global HealthがこれだけHotであるのには当然な理由があり、そのこと自体が大きな問題でもある。Global Healthが話題にならない世界となるのが一番望ましい。

貧困のない世界、皆が健康な世界なんて絵空事、非現実的な理想主義だという批判はもちろんある。
しかしそう割り切ってしまったら、何が世界に残るのか。
現実主義というものは、理想主義の上に成り立つものであり、理想なくして現実主義はありえない。
非現実的だから取り組まなくてもよいというのならば、世界は何も変わらない。
何も変わらない結末は何なのか。

現実を見つめるからこそ、理想を求めずにはいられない。