Sunday, December 24, 2006

The Challenge of Global Health (From Foreign Affairs)

前回の記事に引き続き、Global Health関連。
じつはこちらが本題。

2007年1月・2月号のForeign Affairsにて、興味深い論文が発表された。(全文無料で公開)

テーマは、”The Challenge of Global Health”

この”Foreign Affairs”は、アメリカの外交政策の奥の院とも呼ばれる外交評議会(Council on Foreign Relations)が発行する雑誌で、アメリカの外交政策、ひいては今後の世界の国際関係を占う意味で極めて重要な意味を持つ。詳しくはWikipediaを参照。

隔月で発行されるこの雑誌の今回のTopの記事として、近年のGlobal Health(国際保健)を取り巻く大きな変化が取り上げられている。
著者は、世界で唯一、ピューリッツァー賞(2度)、ピーボディー賞、ポーク賞というthe Big "P's"すべてを受賞しているジャーナリスト、ローリー・ギャレット(Laurie Garrett)
Global Pubic Health(国際公衆衛生)の分野を専門としており、この分野では、極めて大きな影響力のあるジャーナリストの一人だ。そんな彼女が取りあげたのは、めまぐるしく変化する現在のGlobal Healthが抱える根本的課題である。

前回の記事では、近年、特にこの5年間における国際関係におけるGlobal Healthの重要性の高まりと大きな資金の流れについて触れた。
実は前回の記事は、この記事のための前置きであり、今回の記事は、前回の期待に溢れた記事の内容を大きく覆すものだ。

この最新の論文においては、こうした劇的な変化の裏でGlobal Healthのアプローチが抱えている大きな構造的な問題を突いている。長いが、非常に示唆に富んだ内容である。
(高尚な文章だったので、翻訳が難しく読みにくくてごめんなさいね。)

以下 邦訳<一部。今後連載予定です。>

1. BEWARE WHAT YOU WISH FOR

 10年も経たないほど前まで、Global Healthにおける最大の問題は、世界の貧困や健康を損なわせる複合的な災禍に対処する利用可能な資源の欠如であったように思われる。しかし、現在は近年の公共・民間部門からの前例のない桁外れな寄付の増加のおかげで、過去にないほど巨額の資金が健康問題に対し投じられるようになっている。しかしながら、この資金が利用されている取り組みというのは、大部分は協調性がないものであり、大半が全般的な公衆衛生ではなく、ある特定の目立った疾患に集中している。 こうした状況には、現在の寛容の時代をただ短期的なもので終わらせかねないというだけでなく、現場で自体をさらに悪化させかねない深刻な危険がある。

 歴史上初めて、世界は巨額な資金を貧困による病気(the disease of poor)の克服に費やそうという体制になっているという事実にも関わらず、この危険は存在する。開発途上国の健康問題に取り組むことは、さまざまな理由によって、この5年間多くの国の外交政策の鍵となる特徴であった。HIV、結核、マラリア、鳥インフルエンザなどの主要な死因の拡大をストップすることを人道上の義務としてみる人もいれば、それを開かれた外交の形としてみる人もいた。そしてまたある人は、病原体に国境がないことから、それを自己保護のための投資としてみる人もいた。各国政府は、Bill and Melinda GatesやWarren Buffett(彼らの今日の疾病に対する戦いへの貢献は圧倒的なものである)に代表される民間ドナーの長いリストに加えられる形となっていた。

 こうした人々や機関の努力のおかげで、現在では数十億ドルが保健支出のために利用可能となった。そして、数千のNGOや人道的なグループがそれらを利用しようと競っている。しかし、お金より必要とされてるものがある。開発途上国の公衆衛生の改善には国、ヘルスケアシステム、そして最低限の基準を満たすローカル設備が必要である。そして何十年もの無視された間にに地域の病院、診療所、検査室、医学校、そして保健人材(health talent)は危険なほど欠陥のあるものになってしまったために、現場に溢れている資金の大半は現在結果を出すことなく漏れ出てしまっている。

 また、全体として、援助が短期的な非常に多くのターゲットに縛られているケースが多すぎる。具体的には、特異的な薬を受け取る人の増加、HIV陽性と診断される妊婦数の減少、病気を媒介する蚊から子どもを守るための蚊帳数の増加といった目標のことである。実質的に公衆衛生が改善するためには、2,3とは言わないが、少なくとも一世代かかる、そしてそうした取り組みは特定疾患よりも、集団の全般的な厚生に影響を与える幅広い尺度に焦点をおくべきであるということを理解しているドナーはほとんどない。

 更に言えば、世界では400万人を優に超えるヘルスケアワーカーが不足しているという事実はいつも無視されている。先進国では、人口の高齢化が進み、今まで以上に医学的な配慮が必要な時代を迎えようとしており、開発途上国からローカルの保健人材を搾取している。すでにアメリカの5人に1人の臨床内科医は外国でトレーニングを受けた人々であり、最近JAMA(アメリカ医師会誌)に発表された研究では、もしこの傾向が続くと、2020年には、80万人の看護師と20万人の医師が不足する可能性があると指摘している。たとえ米国や他の富める国が、急激に国内の医師・看護師の給与とトレーニングプログラムを増やしたとしても、15年以内には病院のスタッフの多数派は、途上国または中進国に生まれ、そこでトレーニングを受けた人々となる可能性が高い。こうした労働者が西側諸国へ溢れだせばだすほど途上国は一層絶望的な状況になる。

 しかし、こうした問題に取り組むために必要な明確なビジョンのあるリーダーシップは悲しくも欠如しているのが現状である。昨年一年間において、Global Healthを展望するリーダーシップのポジションは、戦略が見通せない前例のない時期を作り出し、すべて入れ替わった。5月のWHO長官Dr. Lee Jong-wookの不慮の死により、彼の後継者選びのため、いままでにないプロセスを取らねばならず、世界中の保健問題の唱道者らは、重大で長いこと無視されてきた問題を問うこととなった。誰が健康問題と戦うことを統率していくべきか、だれがその賠償をすべきか、そして、最も採用すべきの戦術・戦法は何なのか?といったことである。

 その答えはそう簡単には思いつかない。11月、中国のDr. Margaret ChanがLee氏の後継者として選出された。Chanは、香港の保健局長として、管轄地のSARSと鳥インフルエンザの対策をリードし、後にWHOの伝染病部門の舵取りを行った。しかし、彼女は選出後の声明の中において、彼女の組織(WHO)は、いま深刻な競争と新しい挑戦に直面しているという認識を示した。そして、この文書の時点において、世界エイズ結核マラリア対策基金においても新たなリーダーが不在の状態であった。1ヶ月に及ぶ長い選挙のプロセスに300名を超える候補者がポストをめぐって争い、委員会は、基金のミッションや将来の方向性に関するつまらない口論で泥沼化した。

 一方で、新たに設立されたGlobal Healthプロジェクトのほとんどは、組織の有効性や持続性をアセスメントする方法をはじめから持っているわけではない。更に、最初のパイロットプログラムを超えて規模を拡大したプロジェクトは更に少ない。そしてそのほとんどすべては、先進国の住民によりデザインされ、運営・実施されている(ローカルの人材や地域との共同作業ではあるが)。非常に成功しているプログラムの多くは、脆弱な国の中で、ほとんど政府から干渉を受けずに活動している外国のNGOやアカデミックグループである。事実上、世界の貧困国に、彼らが望むものを表明したり、どのプロジェクトがニーズに沿うか決めたり、地域の技術を採用したりすることを許す余地はない。そしてほとんどすべてのプログラムは、引き上げ戦略や地方行政の依存に対する防衛策を持っていない。

 その結果、保健の世界は速いスピードで道の分岐点へ差し掛かっている。今後来たる数年は、現場の公的・民間の努力により、Marshall Plan(アメリカによる戦後の西欧復興計画)に匹敵する何十億もの人々の劇的な健康状態の改善がみられるか、あるいは貧しい社会が更に深い困難に陥り、良かれと思って行った更なる諸外国からの干渉が失敗するかであろう。どんな結果に終わるかは、開発途上国のヘルスワーカーのローカルの人材プールを拡大することができるか否か、崩壊しかけた、国そして世界の保健インフラを回復・改善することができるか、そして疾病予防・治療に関するローカルおよび国際的な効果的システムが考案できるかということにかかっている。

<続く>
...2. SHOW ME THE MONEY

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