Sunday, December 24, 2006

Increasing Presence of Global Health

近年のGlobal Health(国際保健)の動向に関し、Reviewを書いてみました。
重要な事項に関し、モレ等も多くあるかと思うので、いろいろご意見いただけたらうれしいです。


■ Increasing Presence of Global Health

2005年、2006年は、Global Healthが世界の中心的課題として位置づけられ、官民両面において、大きな前進をした年と言われる。

□ Bill and Melinda Gates Foundation

民における大きな前進は、ひとつはBill and Melinda Gates Foundation(B&MGF)という巨大財団の存在。いわずも知れたMicro$oftの会長、Bill Gatesが個人資産の大半を寄付する形で作られている財団であり、途上国の国家予算をゆうに超える資産を有している。
この財団は、Global Health分野を中心に、社会開発分野におけるプログラムを実践する団体に多額の寄付を行っていることで有名である。(Gates氏自身、Microsoftの仕事のほかに、WHOやUNICEFの関係者らとたびたび会合したり、世界の国際開発を決定付ける重要な国際会議に出席したりしている。)

このB&MGFは、今年6月、2度も世界の新聞の1面を飾った。
1つは、Bill Gatesと長者番付1位を争う投資家Warren Buffet氏が自己資産の80%にあたる370億ドル(4兆円!!寄付額としてはアメリカ史上最大)を寄付すると表明したこと。
もう1つは、今年Bill Gatesは、2008年6月にMicrosoft会長の座を退いて、B&MGFの活動に専念することを表明したこと。
この2つのBig Newsは、世界にGlobal Healthという課題の重要性を強く印象付ける結果となった。

あまり日本に関係なさそうなこの財団だが、実は意外なところでつながりがある。
日本では意外なほど知られていないことだが、B&MGFのGlobal Health ProgramのChairmanは、なんと日本人。
ミシガン大学医学部の内科医長、巨大製薬企業Glaxo Smith Kline (gsk)の研究開発部門チェアマンという異色の経歴を持つ山田忠孝氏。Bill Gatesがマネジメント力抜群と賞賛する方なのだそうだ
(関係ないですが、gskといえば、抗エイズ治療薬(ARV)の途上国での値下げなどでCSR Rankingが高い企業としても有名。ブランドイメージを考えてのことかとは思いますが。NPOから非難の的にされることもあったりなかったり・・・。[参考]

このB&MGFの活動やBuffet氏の”投資”には、いろいろ批判を呈する人もいる。
しかし注目すべきは、この活動の結果彼自身が利益を上げたかとか、企業に有利に働く、だといかいった点ではないのではないか。
少なくともこの途方もない巨額の資金が世界の貧困削減にあてられているという事実そのものだと私は思う。あなたに、一生懸命自分の人生をかけて稼いだ自己資産の大半を寄付する勇気があるか。そんな声が両者から聞こえてきそうだ。(もちろん彼らは大半投資しても普通の生活をするには十分すぎる自己資産は残すわけだが。笑)


□ Bono (U2)

そしてもうひとつ、民における大きな前進としては、ロックバンドU2のBonoの活動が挙げられる。
(Bill Gates, Melinda GatesとともにBonoは2005年のTIME誌のPerson of the Yearに選ばれている)
Bonoは、先進国にAfrica諸国の債務帳消しを求める活動(JUBILEE 2000)に携わり、その知名度と、世界の政界とのつながりを駆使して、2005年のG8で先進国に債務帳消しを約束させた。2005年、G8開催前に世界8ヶ所で同時開催したLive 8も彼がOrganizeしたものだ。

彼の活動を際立たせているのは、それが単なる世界平和を祈る音楽家としての活動の域を超えて、確かな国際開発の知識に裏打ちされた政策提言活動である点だ。政治家・活動家としての手腕は高く評価されており、James Wolfensohn後の世界銀行総裁の候補者としても有力候補者として名前が挙がったほどだ(噂ではなく、世銀関係者が事実と認めている)。また、2005年のノーベル平和賞の候補者としても名を連ねた。

歴史的偉業を成し遂げた後、彼は2006年1月、HIV/AIDSのための新ブランド"Product RED"を創設した。このブランドは、パートナー企業が「RED」のロゴ入り製品を特別に企画し、その販売収益の一部を世界エイズ結核マラリア対策基金(GFATM)に継続的に寄付するという画期的な仕組みを持っている。AMEXやAppleといった大企業がパートナー企業として参加しており、GFATMにおける民間企業の貢献を大きく後押しすることは間違いない。(GFATMは、政府、民間企業、個人からの寄付によって成り立っているあ、これまで民間企業の寄付の割合は低かった。)


□ 官における前進

官における前進としては、第1に、前述のとおりG8での重債務国の債務帳消しが約束されたこと。
特筆すべきは、この歴史的な合意の裏には、民の力(Civilian Power)があるということ。
Bonoによる活動のほか、「ほっとけない世界の貧しさキャンペーン(Global Call to Action against Poverty)」によるホワイトバンドの活動は、日本でも社会現象となった。
(後に資金流用疑惑で批判の対象ともなったが、私はあれが妥当な批判であったとは思えない。日本では、いまだ”非営利”=ただのボランティア活動と勘違いされている面があり、Professionalな組織としての認識が薄い。行政組織や民間企業と同様に、活動には資金が必要であるという当然至極な視点が抜け落ちている。Accountabilityという点で問題は確かにあったかもしれないが、そうした批判をするのであるならば、活動自体の本質的な意義・社会に与えたインパクトを理解したうえで行う必要があるのではないか。)

また、先進国各国によるHIV/AIDS対策のイニシアティブも活発化してきている。
中でも2003年よりスタートしたアメリカ政府のHIV/AIDSに関する緊急計画(PEPFAR Project)は巨額(1.7兆円規模)である。
(毎度のごとく、この計画にもさまざまな批判はなされている。事実、私自身ケニアでGFATM系のARTに関わった際にもPEPFARの方法論においては、いくつか疑問を感じる点はあった。)

□ Pandemic flu

そして、Global Healthのプレゼンスを高めているのは、HIV/AIDSのみではなく、H5N1 influenzaの大流行Pandemicが近づいていることにもよる。
Pandemicによる死者数は最大で1億5千万人に上る(日本の人口以上!)と推定されており、国際公衆衛生史上最大の危機とも言われる。
現実感がないが、実際、1918年のSpanish flu(スペインかぜ)では、実際4千万人~5千万人の死者数を出し、このpandemicの影響で第1次世界大戦終戦が早まったと言われる。
Pandemic直接の影響のみならず、2次的な衛生環境悪化も大きな問題とされている。前述のSpanish fluのpandemicでは、死者数に対し埋葬が追いつかず、腐敗による衛生環境の悪化が大きな問題となった。
前回のSpanish fluの時代に比べ、現代は、Globalizationが進行した社会である。2003年のSARS outbreakで明るみとなったが、感染症の伝播速度は、昔に比べはるかに急速になっており、Spanish fluを超える影響が懸念されているのが今回のH5N1 fluである。世界経済に与える影響も当然無視はできない。

■ 結語

HIV/AIDSとH5N1 fluは、どちらも人類の存続にかかわる事態であり、そのために世界各国は本気になった。また世界の貧困問題が近年脚光を浴びるの理由の一つに、極端な貧困、格差の存在がterrorismの温床になるという先進国の怖れがあるのも事実だ。
つまり、Global HealthがこれだけHotであるのには当然な理由があり、そのこと自体が大きな問題でもある。Global Healthが話題にならない世界となるのが一番望ましい。

貧困のない世界、皆が健康な世界なんて絵空事、非現実的な理想主義だという批判はもちろんある。
しかしそう割り切ってしまったら、何が世界に残るのか。
現実主義というものは、理想主義の上に成り立つものであり、理想なくして現実主義はありえない。
非現実的だから取り組まなくてもよいというのならば、世界は何も変わらない。
何も変わらない結末は何なのか。

現実を見つめるからこそ、理想を求めずにはいられない。

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